192期 客演指揮者北原幸男先生
インタビュー前半


京大オケについて

――まず、京大オケについてどういう印象をお持ちなのかなということをお聞きしたいです。

 日本で最も歴史がある、由緒あるオーケストラのひとつなわけですよね。もちろん人は変わってるわけですけどその伝統っていうのはやっぱり息づいているのかなというか。僕もよくアマチュアオケや大学オーケストラとご一緒させてもらうんだけど、今回の曲目の提案をされた時点でね、ほかでは出てこないような曲があるんですよ(笑)そのような時代に左右されないような価値観を持っているという印象です。

――練習のなかで、北原先生が熱い想いを持って団員に臨んでくださっていると感じています。

 僕が、指揮者として一番心がけているのは、これはプロだからとか音大のオケだからとかアマチュアのオケだからとかそういう風に、相手を見定めて妥協するっていうのは一切しないということなんです。というのも僕の大切な師匠のひとりである小澤征爾先生は、どんな本番でも相手がどんなところであっても全力投球するという姿勢だったんですね。これだけ指揮者がたくさんいる中から呼んでもらった責任というのは非常に感じているし、この地球に70億の人間がいる中でのみんなとの出会いというのは、これはとても深遠なものですよね。だからそれを大切にしたいという。

 

アテネの廃墟について

――それではまず「アテネの廃墟」についてお聞かせください。

 「アテネの廃墟」序曲は僕も生まれて初めての指揮で、たぶんこれが最初で最後かもと思って(笑)いや、でもみんなとすごい名演ができたら…もちろんそれは”迷”演じゃなくてね。

 僕にとってベートーヴェンは、指揮者、音楽家としての中心を成す作曲家なんですよね。それは京大オケの大先輩の朝比奈隆先生も山田一雄先生もそうで、指揮者の、指揮の教育活動に従事されるときもまずベートーヴェンの古典のシンフォニーを徹底的にやるという、そういうものなんですね。でね、やはりいわゆる名曲といわれるものは、ある程度の演奏でもそれなりにお客さんに、喜んでいただけて、演奏する方も満足感があってみたいなところがあるんですよ。「アテネの廃墟」序曲はそういうことでは全く進まない曲なので、あえてそれに取り組むというのは、やっぱり京大オケの、みんなの目指してるその理想があると思うんですよね。僕も指揮者として、やるからには一切の責任転嫁、言い訳というのはダメなんです。だから、僕はみんなとはもう、素晴らしい、大成功の「アテネの廃墟」序曲を、この曲の真価を京大オケ・北原幸男の演奏が世の中に披露した、と言われるようにがんばりたいですね。でもそれには、やっぱりベートーヴェンだからドイツものっていう単純なものじゃないことはみんなよくわかっていると思うので、その時代のこととか、背景をこの曲についてどんどん掘り下げていってほしいよね。だから僕もイタリアのこととか、ちょっとモーツァルトの香りがするとか言ったけど。

――4ヶ月近くかけてアテネの5分間にかけてる団員もいて、そういう中でひとりひとりがこだわりを持ってやれたらと思いますね。

 

ロメオとジュリエットについて ロシアとのつながり

――それでは次に、ロメオとジュリエットのお話をお聞かせください。

 実は僕の父は尺八奏者なんですけど、ちょうど僕が生まれたその年にモスクワの民族楽器コンクールで父が金賞を取った。だから父は僕が生まれたときにはモスクワにいたんです。なので、ロシアとのすごい繋がりがある。もちろん日本人でも、尾高忠明先生、秋山和慶先生、小澤征爾先生、たくさんお世話になった先生がいますけどね。それと僕はインスブルック歌劇場の見習い指揮者で、やめる時には第二指揮者だったんだけど、その時の上司のピーチニク先生はロシアの血が入ってたんです。それでね、彼は演奏するときにあんまり興奮して2回心臓発作を起こして、次はもう天国行きだよって言われたんでオーケストラ振るのはやめにしたんだ。それぐらい、ピアノ弾いてても何しててももう、ほんっとに、うわーっと、音楽はパッションだっていうか。それでもう一人はブジャーヌ先生っていって、僕は彼のフッサールの現象学に基づいたメソードを後の世に伝えたいと思って、いま教育活動にほんとに力を入れているんです。みんなにもちょっと小節構造のことを言っているんだけど、実はそのメソードに基づいたことなんです。建築物でいう設計図がプロフェッショナルな演奏をやるにはやっぱり、重要なんですよ。ちゃんと構造とかを理解せずに、あ~いい曲だな~っていって、音にしてるだけではダメなわけです。ブジャーヌ先生はそういうほんとに理論的な人で、でももう一方で絶対パッションっていうか、情熱を持っている。だから、こういうロシアものをやるときには、冷静さと情熱さを併せ持って、ただ迫力というか勢いではやってほしくない。

――なるほど。ロメジュリにはとても激しい部分もありますが、僕らとしても楽しいだけで終わるような演奏にはしたくないですね。冷静でありながらも、情熱的に、曲の持つよさを伝えられるような演奏にしていけたらと思います。

 

今回はここまで。京大オケと真剣に向き合ってくださる北原先生の情熱に、こちらも気が引き締まる思いです。団員の質問に対して、にこやかに、言葉を選んで誠実に話してくださる姿がとても印象的でした。後半では、メイン曲であるシェヘラザードや、音楽についてのお話をお届けします。ご期待ください。

関連記事:指揮者紹介

文:192期 広報部

用語解説

第二指揮者

正指揮者が不在の場合に代理指揮者として稽古を執り行うなど、正指揮者の助手として様々な役割を持つ指揮者。
→記事に戻る

フッサール

主に20世紀に活躍したオーストリアの数学者、哲学者。
→記事に戻る