客演指揮者北原幸男先生
インタビュー後半


北原先生と総務

シェヘラザードについて

――それでは、シェヘラザードについてお聞かせください。

 シェヘラザードはやはり仕組みが分かるのにも非常に注意と慣れが必要な曲ですから、みんなはまだそこのところでちょっと怖いとか、迷いがあるかな。まだちゃんと分かって演奏しているようにはあまり感じられない。だから例えば食事でいえば、出されたものをただ食べるだけというのはちょっとね。自分が作る人の立場に立って、これの材料はどういうもので調味料はどうだとか、茹で加減がどうだとか、そういうことを考えながら、味わって食べる。だから料理も音楽も同じですよね、分かることが大事なんですよ。言葉もそうだよね。ただべらべらべらとしゃべってるんじゃなくて、ほんとに人の心に染み入るように言う。それが音楽の場合は、音符なわけですよ。音は二つ以上の音がどういう風な組み合わせになるかということによって、音楽になっていくんです。そこに深遠な法則があって、指揮者はそれを解きほぐしていって、全部のパート、全体像を見ていくんですね。演奏者の方も、いいオケほど自分のパートをちゃんと弾いているだけじゃなく、やっぱりみんながスコアをよく分かっている。

 登山に例えると、今自分がどこにいるかっていうのが分かっている。曲の最後が頂上であるとすると、今何合目のここのあたりで、ちょっとここで寄り道してとか。ここで景色が変わって、とかが分かる。それでね、オーケストラの曲にはいろんな楽器があるわけですよ。それが場面ごとに、この楽器は主役、この楽器はちょっと脇役、でもこの脇役同士はこういったバランスでこれを支えるとか。そういうことを踏まえながら、目的は何か、目指すところはどういう演奏なんだっていうことを考えていかなくてはいけない。技術のことだけをやって、それが出来てから勉強しましょうではだめなんだ。同時進行。ひたすら真っ暗闇の海底のトンネルを掘っているように、ただきた譜面を弾いているようではいけない。

 音楽の難しいところは、楽譜はあるんだけど、音楽そのもの自体は目に見えないんですよ。それは指揮者の仕事であり演奏者の仕事でもあるんだけど、その見えないものに対してフォームを見つけなきゃいけないんです。音楽の中で一番大事なものには直接的に書いてないものがあるんです。テンポとかサウンドとかは要素であって、英語でいえばHowなわけです。Howにはもちろん色んなことがあるんだけど、その前にWhat、それをちゃんとわからなきゃいけないってこと。

――大事なものは目に見えない。音楽って何なんでしょうか。

 よく音楽は時間芸術って言われるけど、ブジャーヌ先生はエネルギーの芸術とおっしゃった。人間も生きていくうえでいろんなことをやるのにやっぱりエネルギーがいるわけですよ。それでね、音楽にもいろんなエネルギーがある。強い、弱い、あたたかい、冷たい、太い、とか、はやい!とかね。だから、みんなにもよく言ってるけど、エネルギーのないpはただ弱いだけで全然伝わってこないんだ。pにはpの表現があるっていうのは、小澤征爾先生もいつも仰っていた。まず表現がなきゃ。表現しなくちゃ。

――一人一人が表現を持った上で、皆がイメージを共有して演奏することが大事なんですね。

 そうだね。ただみんな一人一人が固有のDNAを持っているわけだ。一人として同じ人はいないわけだから、規制したり合わせたりするだけじゃなくて、根本のところを合わせて、あとはそれぞれの個人の持っているパーソナリティが、いい意味で融合していけばいいね。

 

北原先生と団員

どのような演奏会をつくりあげていくか

――京大オケのメンバーと、演奏会をどのように創りあげていきたいのかということを、お聞きしたいです。

 一人一人が貴重な存在なんですよね。僕は指揮者というとても責任のある立場にいるわけなんですけど、いい演奏にできるかどうかは、みんな一人一人が、今回演奏しない裏方の人も含めて、こういう風な演奏会にしようって本気で思ってくれるかにかかってるんです。今回のコンサートに向けて、「北原先生はこういうことがやりたいんだから、自分たちも本気の覚悟で取り組もう」ってね。それはただ曲をさらってくるとか、そんなことだけではだめなんですよね。僕のほうも、怒って人を萎縮させて、批判ばかりするっていうやり方は出来ないですし。僕はヨーロッパに17年本拠を置いていたときに、あちらのコンセルヴァトリウムで教えてたんですけど、あちらのいい先生は、最初から学生にああしなさいこうしなさいって一切言わないの。あなたは何をしたいの、この曲に対してどういうイメージを持ちますかって。そういうことを主張しなきゃダメなんだよ。それが再創造っていうかな。だから、譜面っていうのは、謙虚に受け止めなきゃいけないんだけど、そこの束縛からやっぱり逃れることも大事なんです。

 話を戻すと、今はメールとかネットの時代なんだけど、ある意味ではやっぱり人間同士が内部で接しあうという、そのかけがえのなさというか、そういうのが必要なんじゃないかな。そうしてみんなの気持ちが一緒になったときに、今回の京大のみんなとの演奏は、誰よりどこが上手いとかそういう次元じゃなくて、このメンバーでの、他の誰にもできないような演奏にできると思うんです。だから僕としては、謙虚なのはいいんだけど、受動態になりすぎないでほしいの。もちろん指揮者としてこっちからこうやりたいっていうのを出さなきゃいけないんだけど、ただそれを待つ姿勢にはなってほしくないね。

 プロのオケだと定期演奏会でも、3日くらいの練習なんですよ。それだけの期間で仕上げなきゃいけないんだけど、実際ほんとに深いもの、誠実なものをつくりあげようと思ったら、それで済むわけがないんだよね。その点例えば京大オケは、こうやって時間をかけて取り組んでくれる。僕が来られる回数は限られているけど、学指揮を中心に自分たちで色々考えてやってくれる。やっぱり本物をつくるっていうのはそういうことなんですよ。

――そうですね。全員でいい演奏会をつくっていけたらいいなと思います。

 そうなんだよね。僕はね、おかげさまで大学の仕事があって、宮内庁でも演奏活動をして、本当にたくさんの色々な仕事に恵まれているんだけど、その一つ一つ、瞬間瞬間を大切にするっていう気持ちで臨めたらと思っている。それはやっぱり小澤征爾先生のような優れた音楽家の大先輩たちがみんなやってることですから。

 

最後に…

 人間の体は小宇宙といわれているんですけれども、70兆の細胞があって、頭と心と体がある。楽器を演奏する上で自分の能力を一番心地よく発揮するためには、技術的なことに加えて、やっぱり心と体を全部自由に使わなきゃいけないの。それで僕は呼吸ということを大事にしている。管楽器や歌の人はいつも呼吸と対峙しているんだけど、弦とか打楽器、ピアノの人は息が止まっていても音を出せてしまうんです。だから尚更歌いなさいっていつも言ってるし、いい呼吸をすれば無駄な力も抜ける。もちろん力を全部抜いたらだらんと寝転がっちゃうわけで、支えは必要なんだけど、余計な力はいらない。人間の体って全部繋がっているわけだから、手先だけじゃなくて全身を使って演奏してほしいんだよね。そうやっていいオーラが出てきたら、これだけの人数がいるからお互いがプラスの方向にもっと有機的に繋がっていって、それが本当に実動的な形になった時にはそこにいる聴衆の人にもそれが伝わるんです。どんなに素晴らしいDVDとかにも負けない、生身の人間のライブの素晴らしさっていうものの魅力はそこにある。

――そういうものが今度の1月8日、10日に是非出来たらいいですね。

 だから自己限定っていうのは一切なくして、自分の壁を作らないでほしい。人間ってやっぱりその気になったときに、本当に考えもしないような能力とかがどんどん伸びていくんです。みんなには、高い、深い、強い理想を持って、そこに邁進していってほしいですね。

――そのような理想に向けて、本当にいい演奏会をつくれるように僕たちも頑張りますので、これからもよろしくお願いします。本日はありがとうございました。

 いやこちらこそ。どうもありがとうございました。

 

いままで前半、後半にわたって北原先生の想いをお話して頂きました。第192回定期演奏会に向けて北原先生が団員との一瞬一瞬を大切に、強い気持ちで臨んで下さっていることがとてもよく伝わったかと思います。私たちも北原先生の想いを受け止め、本番に向けて切磋琢磨していきます。

来箱にて第192回定期演奏会の宣伝Tシャツを着て下さった北原先生

インタビューを快く引き受けてくださった北原幸男先生、本当にありがとうございました。

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文:192期 広報部