京大オケの
仕事人
~舞台係・楽器係~


音楽づくりは、セッティングから始まる。――舞台係

来箱前のセッティング風景。ご覧の通り様々な形、大きさ、色の平台がある。

開演前のアナウンスが入り、席について演奏者たちの入場を待つ。――そんな時、演奏者が入場する前の誰もいない舞台にも少し目を向けてみていただきたい。整然と並べられた椅子と譜面台、打楽器やハープ。この舞台を用意するのが、舞台係のスタッフたちだ。

普段から、本番の舞台を意識して練習する。
そんな演奏者たちのこだわりを支える舞台係。

京大オケには団所有の平台と箱馬があり、普段の練習や来箱でも基本的に自分たちの手で雛段を組んでいる。普段から雛段を用いているのは、ホールとは広さや天井の高さは違うものの、できるだけ本番に近い環境で練習をしたいという姿勢からだ。「そもそも、平台や箱馬を所有していて自分たちで雛段を組んでいる学生オケ自体少ないみたいですけど、練習の質を高めるためには有意義なことだと思います。」舞台係チーフが言うように、管楽器や打楽器が弦楽器と同じ高さで演奏するのと雛段に乗るのとでは、演奏者自身の感覚も客観的な聞こえ方も大きく異なる。ところで、平台は新練で日常的に使用され来箱時にはトラックで運搬するため、中には経年による歪みが大きいものもある。そのため雛段を組む際には、がたつきが生じないよう慎重に作業している。「演奏中に雛段ががたついて気が散っては元も子もないですし、平台の破損や演奏者の怪我にもつながりかねないので、薄い板を挟んで調整するなど気を使っています。」

ズレやがたつきがないよう丁寧に作業を進める

来箱では、雛段を組むのはもちろん指揮者台や椅子のセッティングも、各パートトップとともに舞台係が中心となって行う。来箱は毎回異なるホールを借りて行うのだが、それぞれに形や音響が異なるため、配置を微調整する必要があるのだ。実際、来箱やゲネプロで客演指揮者の先生から「ハープをもう少し中に入れて」などと細かな指示が出ることもあるから、セッティングもよりよい演奏をするための大切な準備と言えるだろう。そのため練習が始まってからも、指揮者の指示があれば迅速に対応できるよう、スタッフは上手下手それぞれと客席の前列に常に待機している。またセッティング以外にも、楽器係とともに雛段の積み下ろしを行ったり最初にホールに到着して楽屋の鍵を開けたりと、舞台係は来箱の日には様々な仕事をこなしている。

入退場やドアの開閉のタイミングも、演奏会の流れに大きな影響を与える。

舞台係のもう一つの大きな役割は、演奏会本番の舞台進行を司るステージマネージャーである。演奏者や指揮者の入退場の合図にドアの開閉、曲間の舞台転換。どれもスムーズに流れて当たり前、客席からも特に意識されない仕事だが、ミスをすれば演奏会の流れを乱してしまう。「ドアを開けるタイミングひとつとっても、結構難しいんですよ。早すぎても駄目だし、逆に変に間が空くとお客さんも「え?」ってなるんで、実はかなり緊張してます。」

演奏会の円滑な進行のため、ホールの職員の方との打ち合わせやスタッフ内での動きの確認には余念がない。また、本番やゲネプロの間はもちろん舞台につきっきりで、荷物も舞台袖、楽屋に入る時間もほとんどない。終演後の撤収の責任者も舞台係だ。係の仕事をしながら演奏者としてステージに立つ者も多く、舞台係の演奏会当日はとにかく多忙である。

 

楽器は団員の命。命を運ぶ、大切な仕事です。――楽器係

ある来箱の日の積み込み風景。この日はトラック 1 台にワゴン 4 台と大所帯だ。

オーケストラには形も大きさも様々な楽器があるが、中にはコントラバスやティンパニ、ハープのようにとても大きく、手持ちでは運ぶのが難しいものもある。そのような大型の楽器や平台、録音機材などを運搬し来箱や定期演奏会の運営を陰で支えるのが、楽器係の仕事である。

積み込みはもちろん、トラックやワゴンの運転まで自分たちの手で。

来箱の日の昼休み、新練から楽器や平台を運び出す団員たちに「次はどの楽器をどの車に」と指示を出し、運ばれてきたものを手際よく車に積み込んでいるのが楽器係スタッフだ。トラックの中を覗くと、奥には形や大きさの異なる数種類の平台が隙間なく並べられ、その手前には管楽器や箱馬、色々な機材が入ったケース類がぎっしりと積まれている。楽器係チーフに積み込みについて聞くと、積む順番や積み方など細かい説明が返ってくる。「適当に積み込むと入りきらなかったり隙間ができて楽器が倒れてしまったり。それに、いざホールで荷物をおろしてみたら必要な楽器が一本積まれていなかった、では大変ですから。きちんと計算してやっているんです。」

積み込みが終わったら、スタッフ自ら運転席に座りホールに向かって出発する。「普通の車より車体が長く小回りが利かなかったり、後ろが見えにくかったりするので、安全のため係内でも後輩への教習を行っています。」また、トラックでは細くて通れない道は避けるし、地図には載っていないが目印になるものや、多少遠回りでも安全で間違えにくいルートを経験者から伝えるなど、来箱会場へのルートも予め係内で打ち合わせておく。楽器は団員の命、それを運ぶ係の責任は重大だ。それだけに、ミスや事故を防ぐための準備は怠らない。

トラックを誘導するスタッフ。トラックの運転は後ろが見えづらくて大変。

演奏会当日の運搬は運送会社に依頼するが、その手続きを行うのも、ホールへの搬入の指揮をとるのも楽器係の仕事だ。終演後は速やかに搬出し、それが済めば急いで新練に向かう。空になって新練を去るトラックを見送るまで、演奏会の余韻に浸る暇はない。

特別感謝されることはない。
それでも、自分たちがいなければ練習も演奏会も成立しない。

一般の団員にもあまり知られていないが、楽器係の最も大変な仕事はレンタカー会社との貸借のやりとりだ。特に返却は、自分たちも来箱を終え疲れている中でのもうひと作業。21時の来箱終了後、楽器などを運搬し新練で下ろし終えたところで一般の団員は解散だが、楽器係はその後車両を返しに行き、新練に帰ってくるころには日付が変わっていることも少なくない。とはいえ、多くの団員にとって楽器や雛段は来箱会場に行けばそこにあり、次の総練の時にはいつも通り新練に戻っているのが当たり前だ。「ちゃんと仕事をしたからって誉められることはないですけど、責任は大きい。毎回無事に終わればよかったなと思いますし、ある意味それがやりがいですかね。」

 

今回紹介した舞台係と楽器係の仕事は、いずれも団の活動を行う上でなくてはならないものだ。しかしその姿が観客の目に触れることはほとんどなく、あくまで演奏者を支える裏方に徹する。その存在はまさに、「縁の下の力持ち」という言葉そのものだろう。アマチュアながらできることは追求したい、そんな京大オケの姿勢をまさに体現する仕事人たちである。

搬入もセッティングも完了し、いよいよ練習が始まった。来箱も本番も裏方たちの働きに支えられている。

文:192期 広報部

用語解説

雛段

このように、平台と箱馬を組み合わせて雛段を組んでいく。ちなみに京大オケではなぜか箱馬を「箱足」と呼ぶ。
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来箱

月に 2 日ほど、客演指揮者をお呼びしホールを借りて行う練習のこと。定期演奏会の練習期間は長いので、定期的に演奏の出来を確かめ、練習の方向付けをするための貴重な機会 である。→記事に戻る

新練

新練習場の略称。総練と呼ばれる全体合奏や各セクションの分奏など、大人数での練習は主にここで行われる。→記事に戻る

録音係

裏方の仕事の一つに、来箱や団内での発表会の録音をし、定期演奏会の際には業者にCD 制作を委託する録音係の仕事がある。→記事に戻る

布団

京大オケの楽器係もプロの運送業者の多くも、楽器等の梱包には布団を用いている。「なんで布団?」と思われるかもしれないが、重くて摩擦が大きくずれない、どんな形でもくるめる、隙間を埋められるなどの理由があって珍重されているとのこと。