客演指揮者新田ユリ先生
インタビュー前半


第193回定期演奏会客演指揮者 新田ユリ先生

第193回定期演奏会客演指揮者 新田ユリ先生


 

――京大オケが新田先生と共演させて頂くのは初めてなのですが、京大オケの第一印象はいかがでしょうか?

 まあ実際会ってみて一番感じたのは、今はリハーサルをやっているところだけども、オーケストラ側が何をやらなきゃいけないかっていうことをちゃんとわかってるっていうこと。今までたくさんのアマチュアオーケストラと接してきているけれども、なんていうのかな。こう「先生」っていう風に指揮者を見すぎてしまって、1から10まで教えてくださいとか、全部指示待ち状態とか、そういうオーケストラもなくはない。もちろん学生オケというのは時間をかけてやるし、こういうことがやりたいっていうコンセプトが割とはっきりしている大学が多いから、そういう学生オケを見ることはめったにないんだけども、でも時々、あるわけ。それに対して京大オケは、逆に、自分たちで何をどうしたいかというものがものすごくはっきりとあるオーケストラ。その部分は以前から聞いてはいたんだけれども、確かに、4月の来箱で一番はじめにフィンランディアの音を出したときに、はじめの一振りでそれは感じたので。これはおもしろいなと思って。だから第一印象は、「おもしろい」です。愉快というおもしろいじゃなくてね。

――今回の定期演奏会では北欧の作曲家を取り上げているのですが、「北欧の音楽」というものはどのように発展してきたのでしょうか?

 今回の演奏会の一曲目がフィンランドのシベリウス、二曲目がノルウェーのグリーグ、三曲目がデンマークのニールセン。北欧の三巨匠だよね。ニールセンとシベリウスは同い年で、グリーグの方が先輩。二人とも直接の教えを受けた弟子じゃないけども、やっぱり広い意味でグリーグの影響は受けている。そのグリーグの世代の前に、デンマーク出身のニルス・ゲーゼっていう人がいて。その人が、シューマンやメンデルスゾーン辺りから中央ヨーロッパの音楽を北欧に持ち帰って、シンフォニックな作曲のベースを北欧の若い作曲家たちに教え始めた。だから、ほんとの意味で北欧音楽の父はニルス・ゲーゼ。で、そこから枝葉が分かれた一番はじめの巨匠がグリーグ、グリーグの次にシベリウスやニールセンっていう世代が出てきた。だけど、その二人があまりに巨大だったので、同時代の作曲家たちは残念ながらちょっと隠れてしまっていて。だからその人たちを順番に発掘しているところで。素晴らしい曲がいっぱいあるというので北欧音楽がだんだん浸透してきて、録音も増えてきた。どうしてもタイトルとして『癒しの国北欧』みたいな感じになっちゃうんだけども、決してそんなことはなくて、もういろんな曲があるわけ。自分はそれを日本で紹介するという活動をメインにやっているんですよね。

「北欧を語りだすと止まらないんです」とたくさんお話をしていただきました。

「北欧を語りだすと止まらないんです」とたくさんお話をしていただきました

 

――北欧の国の魅力ってどのようなところなのでしょうか?

 「北欧」といっても、まずフィンランドとデンマークでは大いに違う。で、ノルウェーは文化とか言語的にはデンマークと一緒。とにかくフィンランドっていう国は文化も言語も社会体制も全部違うところにあって。ただ北欧全部に共通してるのは、やっぱり、自然と人間の距離っていうものがものすごく近いというか。なんていうかな、ものすごくナチュラルな形で人間が自然の中にいるっていうことを、その国のコンセプトとか国の哲学みたいにして、みんな大事にしてる。たとえばフィンランドでは、はっきりとその国の法律の部分に、国の自然は誰もが自由に享受できると、その代わりみんながそれを守る義務があると書かれている。やっぱり自然を大切にしようという教育もかなり徹底されているので、国が発展していく時にも、なんでも開発すればいいとかじゃなくてね。森林の国フィンランドなんだけども、70年代にあまりにもパルプ産業が発展して、これ以上切ったらまずい、といって、一切海外へのパルプ輸出をストップしちゃったとか。それも一時的ですが、その中に日本への輸出も入っていました。何を大切にっていったら、自分たちが恵みを受けてる自然を守ることが何より大事だと。だから今日本で問題になってる原子力とかもそう。最近フィンランドの原子力の会社が、ものすごく深いところに穴を掘って、10万年先までそこに放射性廃棄物を埋めとけば大丈夫だっていう施設を作った。で、今どんどん掘っていって、放射性廃棄物を収める準備をしているところで。それで、フィンランド人ってすごく真面目にものを考えるので、じゃあ10万年先の人類がね、果たして今と同じ言語を理解できるかっていう、そういうことまで真面目に討議してるわけよ。じゃあ誰もがわかるような絵で、ここは掘ってはいけませんみたいなことをどうわかりやすくするかとか。

――フィンランドの人は、ずっと後の世代のことまでしっかり考えているんですね。

 うん。フィンランドは共和制で、共和制になる直前はロシアに約100年、その前はスウェーデンに約4~500年支配されていて、国として独立したのは1917年だからまだ100年も経ってないよね。やっぱり人も少ないし、その新しい国がどうやったら発展できるかっていうことで、じゃあ人を育てましょうと。やっぱりそれをやっておかないと、我々のようなちっちゃな国は滅びるぞという。だから、ちょうど30年くらい前に教育システムをばんと作って、ずーっとそれを国をあげてやってきて、その成果が今出てきてるんだよね。
 

 北欧の社会について、分かりやすく生き生きと語って下さいました。インタビュー後半では、北欧の音楽のおもしろさや魅力についてお話を伺います。

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文:193期HP広報部