ソリスト松本和将先生
インタビュー


松本先生にとってのピアノ

――今やピアニストとして名を馳せていらっしゃる松本先生ですが、ピアノを始めたきっかけについて教えてください。

 幼稚園の時に一時的に住んでいた家が保育園の裏で、保育園から毎日ピアノが聞こえてたんです。ピアノが聞こえてきたら、窓を開けてピアノをずっと聞いていたそうです。それで、ちっちゃいキーボードを買ってもらって、ずっとひとりで弾いていたけど、飽き足りずに習い始めたいと言って習い始めたのがきっかけかな。だから、最初は家にピアノがなかったんです。音楽の家庭でもなかったしね。ピアノを買ってもらった小学1年生の6・7月頃は、ほんとずーっと弾いていた。自分にとって最高のおもちゃだったんで。
 ピアノが身近にありやすい楽器だからっていうのもあるけど、ピアノだったのはたまたま。もしその保育園から毎日ヴァイオリンが聞こえてきたら、ヴァイオリンをしていたかもしれない。だから、別にピアノじゃないといけなかったわけではないです。

――そこまで松本先生を惹きつけるピアノの魅力は何ですか。

 ピアノの魅力といえば、自分の気持ちや感覚をなんでも表現出来るということ。ほかの楽器で出来ない、というわけではないんだけど、ピアノっていう楽器は最も機械に近い楽器。管楽器は息を入れる時点で歌に近いし、弦楽器は伸びている音の流れは体の中から出てくるもの。でも、ピアノは打鍵すれば音が出る。それは完全に機械の世界で、だからこそ真っ白な紙の上に一から音楽を描くことが出来るんです。イメージを持っていたらそのイメージになるし、持っていなかったら全くの機械になる。ほかの楽器は楽器に寄り添うのが、すごく必要なんじゃないかな。その楽器の一番いいところを引き出して、その楽器の鳴らし方ができないと音楽が始まらないし、その楽器をうまく鳴らせた時点でそれは音楽になる気がする。でも、ピアノは一音いい音が鳴ってもいい音楽には全くならない。そういう楽器だからこそ、なんでも出来るところかな。


京大オケの第一印象

――今回が京大オケと松本先生の初共演となります。練習をしてみて感じた、京大オケの印象をお聞かせください。

 お世辞ではなくてチューニングの時からうまいなあと。一般大学のオケだから今まで聴いたことがなくて、どんな感じなんだろうと思っていました。ピンキリだけど今まで何度かアマチュアのオケともやったことがあったんですよ。そのくらいの記憶でいたら、みんなちゃんと弾けていたから凄いなあと思いました。
 それに、大学オケとの共演をあまりしたことがないんです。芸大にいるときに芸大のオケとやったことはありますけど、このように大学オケと共演というのは初めてです。


ピアノコンチェルトについて

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――京大オケがピアノコンチェルトを演奏するのは5年ぶりです。松本先生にとって、ピアノコンチェルトはどういうイメージですか?

 やっぱり(ピアノコンチェルトにおいて)ピアノって言う楽器は基本的にオーケストラと一緒であるべき。単純に、バスもあるしメロディーもあって、和声もある、って言うのはそれ自体がオーケストラの響きと流れを作り出すことのできる楽器です。
 (楽譜にも)そういう風に書かれていて、それをオーケストラと、その色んな所のパートを分けあいながら、もしくは一緒に同じところを奏でながらやっていくっていうことは、ピアニストもどうオケが進んでいくかなって言うのを全部分かった上で、「自分はこういく、こう揺らす」って言うのをやらないといけなくて。その両方の感覚が、ソリスト側とオケ側、もちろん指揮者と、ピタッとあったらすごく気持ちいいと思う。拍はここですよって言わなくても自然と流れてくれる。そういうところまでいけると(いいなあ)。

――ピアノコンチェルトにおけるオーケストラの役割はどのようなものでしょうか。

 コンチェルトだし、ソリストとして呼ばれているって言う立場もあって、やっぱり「ソリストがこうやりたい」って言うのがあるんだけど、根本的には室内楽と同じように、ソリストとオケが一緒になって音楽をすることかな。
 ソリスト側が「こうやりたい。ああやりたい。」っていうのを出す、という面はあるとしても、やっぱり最終的にはおんなじように感じて一つの音楽をするっていうのがすごく大事。ピアニストがとりあえず弾いて伴奏するものでは決してないし。曲にもよるし、ラフマニノフはピアノが音楽を進めていく割合は大きいだろうけど、ブラームスなんかだと完全にフィフティーフィフティーなんですよ。


ラフマニノフのイメージについて

――今回演奏するラフマニノフのピアノコンチェルト3番は難易度の高い曲として有名ですが、松本先生の中でのラフマニノフ3番はどのようなイメージでしょうか。

 ラフマニノフの曲はほとんどがそうだと思いますが、特にロシアを離れてからは望郷の念がすごく強いです。この曲はまだその時期ではないんですが、スパッと割り切れない男で鬱にもなったような人だから、色んな悲しみとか落ち込む部分とか愛情といった、たくさんの未練を持って引きずりながらもそれでも進んでいくという曲じゃないかと思います。
 チャイコフスキーと同じ流れを汲んでいるけど、全く違うと思うんですよね。僕はチャイコフスキーよりラフマニノフのほうが心の中にすっと入ってきます。チャイコフスキーの躁状態になった時の「とにかく行け」ということでもないし、「とにかく綺麗なメロディーを」ということでもなくて、ラフマニノフは気持ち的に全部がつながっていると思います。そういう意味では第3番より第2番のほうが気持ちのつながりはあります。3番のほうが2番で成功したから欲を出してこのテクニックもあのテクニックも出そう!というところがないわけではないんですよ。第3番は昔の人はちょくちょくカットして演奏していたんですが、第2番は一つのものがつながっているから絶対にカットができない。第3番はそういう意味では若干チープな部分はあるにはあるけど、ラフマニノフをサロン音楽としてとらえることは絶対にないと思います。

――ラフマニノフはピアニストとしても有名ですが、その影響はあるのでしょうか。また、ピアノコンチェルトをするにあたっては、他の作曲家とはやはり違うのでしょうか。

 やっぱりちゃんとピアノで弾きやすく作ってありますね。ただ手がすごく大きい人だから、手が大きい人にとって弾きやすく作ってある部分があって、そういう部分は決して弾きやすいとはいえないんだけど。たくさん音があるのに、ちゃんと指がそこに運んで行くように作られているかな。
 彼の頭の中ではピアノのこのポーンという音だけではなくて、まさにオーケストラの弦楽器のずーっと繋がっていく音が鳴っていたんだと思います。それはチャイコフスキーも一緒で、チャイコフスキーのピアノコンチェルトの最後とラフマニノフの2番3番の最後ってすごい似ていて、必ずオケが持って行くんだよね。それはやっぱりピアノでは持っていけないくらいの音の伸びが欲しかったんだと思う。ラフマニノフは、オーケストレーションがそんな最高にうまいわけではないだろうけど、それをピアノですごくうまく書けた人。チャイコフスキーはどちらかというとその逆だよね。


演奏会への意気込み

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――最後に、どのような演奏会にしたいかをお聞かせください。

 (ラフマニノフ)2番のコンチェルトはいろんなところでやったことあるけど、3番はまだ一回しかやったことがなくて。3番を久しぶりに弾いてとても新鮮であると同時に、2番よりはるかに音が多いから本番までに音と戦わずに弾けるようになりたいな、と。そうするともっとオケともコンタクト取れるだろうし。オケ側も拍と戦わずに(ピアノと)一つの音楽になって、最後そこにメロディーがあるだけっていう世界が描けるといいなと。

――お忙しい中インタビューを引き受けてくださり、ありがとうございました。


 インタビューをとおして、松本先生のピアノや音楽に対する想い、また演奏会に対する考えを深くお聞きすることができました。リハーサルだけではわからない松本先生の生の声を聞くことができ、非常に有意義なものとなりました。演奏会本番当日には、ピアノとオケが一体となったラフマニノフをお届けできるよう、演奏会に向けて全力を尽くしたいと思います。
 松本先生、お忙しい中ありがとうございました。

文:195期HP広報部