ラ・フォル・ジュルネ金沢2016
曲紹介


古来から、ひとは自然とともに生きてきました。それは今回ラ・フォル・ジュルネで京大オケがとりあげるヨハン・シュトラウス二世やドヴォルザークらの生きた時代においても、また現代であっても、例外ではないでしょう。

 

☆J.シュトラウス二世 ワルツ「ウィーンの森の物語」

 ヨハン・シュトラウス2世は1825年にウィーンで生まれました。彼は、ワルツやポルカといった舞曲を多く残しています。同じく作曲家の父親、ヨハン・シュトラウス1世はすでに作曲家として著名であり、シュトラウス2世もまた音楽家としての才能に恵まれていました。しかし、父親は息子が音楽家になることに強く反対し、大学では経済学といった音楽とはほど遠い教育を施していました。それでも音楽家としての夢を諦めきれなかったシュトラウス2世は、父から独立したのち作曲家として活動をはじめ、管弦楽団を設立するなど、作曲・演奏活動において欧米各地にその名を轟かせ、一世を風靡しました。生涯の多くをウィンナ・ワルツの作曲に捧げ、その功績から「ワルツ王」と評されています。後年はオペレッタの創作も手がけていました。

 ヨハン・シュトラウス2世のワルツ作品は、華やかなオーケストレーションで、曲としての統一感を強く打ち出すような構成をもっています。『ウィーンの森の物語』は、1868年に作曲され、1869年6月にウィーンで初演されました。前作のポルカ『雷鳴と電光』と同時期の作品です。この曲は、ウィーン音楽のシンボル的な存在であり、作曲家自身にとっては愛国心を表現した曲でもありました。ウィーンの森で知られるその美しい緑地帯は、昔から今日まで人々の憩いの場であり、シュトラウス2世もその自然の美しさに心を動かされて、この作品を書いたと伝えられています。シュトラウス2世のワルツの中でもいちばん規模の大きい曲のひとつであり、楽曲の構成は他の曲と比べて複雑なため、踊るためのワルツというよりは演奏会用の交響詩と考えられています。

 この曲は、夜明けを告げるようなホルンの牧歌的な吹奏で始まります。小鳥のさえずりを模した管楽器が続き、そしてこの曲の見所のひとつであるチターの独奏があります。チターは南ドイツからオーストリアにわたる地域の民族楽器で、映画『第三の男』でアントン・カラスがこの楽器を使ってテーマ音楽を演奏したことで世界的に有名になりました。シュトラウス2世は首都ウィーンと周辺地域の融合を表現するためにこの楽器を使用したといわれています。この序奏部は、119小節に及ぶ長大なもので、舞踏者たちの気分を高揚させ、5つのワルツへといざないます。

 第1ワルツはヘ長調。すぐに出る第1主題は浮動するようなのどかな調べです。森をわたるそよ風、裳裾をひるがえして踊るウィーンの娘たちをイメージさせる明るいワルツです。

 第2ワルツは変ロ長調。先ほどのチターの独奏と同じ第2主題が中心になります。素朴なリズムによる滑らかで麗しいワルツです。

 第3ワルツは変ホ長調で、軽くささやくように出て、中間に田舎風で剛健なリズムが入ります。

 第4ワルツは変ロ長調。ますます陽気に明るく朗らかになっていき、踊りの気分は最高潮になります。

 第5ワルツは変ホ長調。爽快気分はずんずんと広がっていきます。

 終始部は変ロ長調で軽快に出て、ヘ長調で第1の主題が再現され、変ロ長調で第2ワルツの中間主題が奏でられます。終わりはヘ長調になり、第2主題が静かに出て力強く終わります。

 この曲が作られた時代の皇帝、フランツ・ヨゼフが「これで奴隷や囚人も一つのあこがれの歌をもつようになった」というほど、この曲はウィーンの人士を喜ばせ、楽しませ、力づける郷土的色彩に満ちたものであることが分かります。

 今回は序奏を一部カットしてお送りいたします。当時のウィーンの華やかさを思い浮かべながら、5つのワルツをお楽しみください。

 

 

☆A.ドヴォルザーク 交響曲第8番Op.88ト長調

 アントニン・レオポルト・ドヴォルザーク(Antonín Leopold Dvořák,1841〜1904)はチェコの首都プラハ郊外のネラホゼヴェス村に生まれました。生家は肉屋と宿を営んでおり、父親はチター奏者、父方の伯父はトランペット奏者という音楽好きの家系にあって、ドヴォルザーク本人も6歳の頃から小学校でヴァイオリンを始めました。当初父親は彼に家業の肉屋を継がせるつもりで実際に修業もやらせていたものの、ドヴォルザークが師事していた音楽の先生や母方の叔父の説得にあったこと、また最終的には父親がドヴォルザークは身体が弱いため家業を継ぐには心許ないと判断したこともあって音楽の道へ進むこととなります。

 プラハのオルガン学校で音楽理論や作曲を学び、卒業後はヴィオラ奏者としてオーケストラで演奏したり個人レッスンをしたりして生計を立てる傍で作曲を続けていました。その頃にオーストリアの国家奨学金審査に提出した自作曲がブラームスの目に止まります。そしてブラームスがドイツの出版社にドヴォルザークの作品を紹介すると好評を博し、その後出版社がドヴォルザークに作曲依頼をするなど名声が広まり、作曲活動も軌道に乗っていきました。

 

 今回取り上げる『交響曲第8番』は1889年に作曲されました。しばしば『イギリス』という副題をつけられることがありますが、その所以は楽曲そのものにイギリスらしさが盛り込まれているというわけではなく、ドヴォルザークの作品を出版していた上記のドイツの出版社とドヴォルザーク本人が仲違いした末にイギリスの出版社から世に出されたことに由来しているということです。渡米前最後の交響曲で、ボヘミア的な色彩が色濃くなっており構成の面から見ても極めて独創的な作品に仕上がっています。

 

【第一楽章:Allegro con brio】

 ト長調。4分の4拍子のソナタ形式。曲はチェロとクラリネット、ファゴット、ホルンによる短調の序奏で幕を開けます。続いてフルートが本来の調であるト長調の第一主題を奏で、提示部に入ります。やがて第二主題が木管楽器によりロ短調で奏でられます。盛り上がりを一旦収まった後、序奏の旋律により展開部が開始されます。フルートとオーボエによる第一主題の掛け合いから展開をみせつつ曲は頂点に達したかと思うと急速に勢いを弱め、オーボエが第一主題を奏で再現部に入り、主題が処理される中で勢いを取り戻し、力強く第一楽章を締めくくります。

 

【第二楽章:Adagio】

 ハ短調。4分の2拍子。不規則な三部形式。弦による穏やかな旋律に始まり、フルートとクラリネットの掛け合いが続きます。これを起点に曲が進行したのち、ヴァイオリンをバックにしてフルートとオーボエが新しい旋律を奏でます。ヴァイオリンのソロの後から曲は一度盛り上がりを見せてから弦の旋律で一度落ち着きを取り戻したのち、冒頭の旋律が力強く現れながら頂点へと向かっていきます。やがて先ほどフルートとオーボエに現れた旋律が今度は管をバックにして弦によって奏でられ冒頭の旋律を伴いながら穏やかに幕が降ろされます。

 

【第三楽章:Allegretto grazioso】

  ト短調。八分の三拍子。三部形式。弦による感傷的で優雅な旋律で幕を開けます。この旋律が形を変えたりしながら何度か歌われたのちフルートとオーボエが明るい旋律を奏でトリオに入ります。この旋律が色々な楽器で繰り返されたのちに冒頭の旋律が再現し第三部に入ります。続いてコーダに入り、トリオの旋律が変形され楽しげな様子をたたえながら登場して終わります。

 

【第四楽章:Allegro ma non troppo】

 四分の二拍子。変奏曲。トランペットのファンファーレで華やかに幕を開けた後、チェロが主題を奏でます。第一変奏は低音弦とファゴットが奏でる主題にヴァイオリン、ヴィオラが呼応する形をとり、その後テンポを上げてホルンのトリオが印象的な力強い第二変奏へ突入します。フルートがソロを歌い上げる第三変奏、再び力強くなる第四変奏を経て「副主題」とでもいうべき異なる性格の主題が第五変奏で奏でられます。これを起点にしながら曲は徐々に盛り上がり、冒頭のファンファーレが再登場したところで最高潮に達します。再び穏やかになったところでチェロが主題を奏で、幾つか変奏が続いたのちにテンポを上げ力強く主題が奏でられ、熱狂していく中で強烈に幕を閉じます。

 

細部まで美しい旋律で満たされ、力強さや哀愁が渦巻くこの曲で、ドヴォルザークの魅力をぜひご堪能ください。

 

参考文献

  • 音楽之友社編『最新名曲解説全集 交響曲Ⅱ』音楽之友社、1979
  • 音楽之友社編『作曲家別名曲解説ライブラリー⑥ ドヴォルザーク』音楽之友社、1993
  • 池辺晋一郎『ドヴォルザークの音符たち 池辺晋一郎の「新ドヴォルザーク考」』音楽之友社、2012
文:199期HP広報部