オーケストラとパイプオルガン


<オーケストラとパイプオルガン>

オーケストラの歴史は、楽器の歴史と比べるとはるかに短く、急激に変化をしていった歴史分野です。

一方、楽器はいつの時代にも存在しました。例えば現在のオルガンの起源は、紀元前3世紀に北アフリカで発明された水オルガンという楽器です。これがのちに西洋で発展するパイプオルガンに続きます。各時代・各地域において、楽器は歌の伴奏として、歌手がいないときにはその代わりとして、舞踏や兵士の行進に合わせて、やがて教会の礼拝にも用いられるようになります。用途の多様性からしても、楽器は今よりも昔の方がその種類は豊富だったかもしれません。

現在のオーケストラは、弦楽器や木管楽器、金管楽器、打楽器といった決まった楽器が配置され、必要に応じて楽器が追加されます。しかし、その形態はルネサンス期にヴァイオリンをはじめとする弦楽器のみの構成からスタートしました。その後、無数の楽器の中から徐々に現在のかたちに必要な楽器を追加し、配置する作業は17世紀初頭~18世紀半ばまで、約1世紀半で行われました。

オーケストラ史の初期において、オルガンやチェンバロといった鍵盤楽器は、さまざまな音を同時に出せるためハーモニーを奏でるのに優れた楽器としてオーケストラに組み込む作曲家も多くいました。しかし、オルガンはその音色が管楽器に似ており、また簡単に調達できないため、時代が進むにつれてチェンバロにその地位を奪われていってしまいます。チェンバロの音色の方がヴァイオリンとの相性が良かったのもその理由の一つでしょう。やがてチェンバロも、ヴァイオリン属の他の楽器がオーケストラに組み込まれていく中で少しずつ脇役へと追いやられ、オルガンとチェンバロはオーケストラの特殊楽器となりました。

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http://topics.blog.suntory.co.jp/i/005316.html

<キリスト教とパイプオルガン>

こうしてオルガンは、オーケストラの中で常用されることはなくなりました。一方でオルガンはオーケストラに組み込まれるよりも前の9世紀~10世紀にかけて、キリスト教において聖歌と共に布教活動のために導入され、演奏されるようになりました。

現代において、キリスト教と音楽には密接なつながりがあります。しかし贅沢品を禁じていた初期キリスト教において、オルガンは華美なものであるとされその使用が禁じられていました。オルガンは発明されて以降、権力の象徴として扱われることも多く、高価な美術品としての側面を持ち合わせていたためです。その後9世紀に文化教育活動に熱心であったベネディクト会に後押しされて大きな修道院にオルガンが設置され始め、11世紀には各地の修道院に普及しました。13世紀末までには大聖堂にも巨大なパイプオルガンが設置され、教会内の典礼に欠かせない存在になっていきます。

その後のオルガンも常に平坦な道を歩んできたわけではありません。15~16世紀に起こった宗教騒乱は教会におけるオルガンにも影響を与えます。16世紀末のオランダではスペインからの独立に際し、カルヴィン派の多い地方ではオルガンがカトリックの象徴と見なされて破壊されることもありました。フランスでは1789年のフランス革命後、第一身分であった聖職者に対して、国民議会はオルガンを含めた教会財産の没収などを行いました。

 

<パイプオルガンの仕組み>

「オルガン」という名前は、ギリシア語の「オルガノン(道具、楽器の意)」が語源で、世界中の楽器の中で最も巨大で複雑な仕組みの楽器です。巨大といっても、そのサイズはさまざまです。それはパイプオルガンが、設置するコンサートホールや教会の大きさや空間の音響に合わせてオーダーメイドで作られるからです。オルガンの調達が難しいのはこのためであり、製作家は依頼された空間ごとにふいご、パイプの数、鍵盤の数、ストップ、その他細かな部品を設計します。

パイプオルガンは大小さまざまな部品が繊細かつ複雑に組み合わさった楽器ですが、一つ一つの部品の基本的な構造は単純です。ふいごは風を起こし、鍵盤はその風を制御します。鍵盤を押すとふいごで作られた風がパイプに送られ、パイプが音を出します。そうして鳴ったパイプの音を止める装置がストップです。鍵盤はエレクトーンのように手鍵盤と足鍵盤の2種類のみで、大型のパイプオルガンには手鍵盤が4段作られることもあります。パイプはフルー管とリード管という2種類のパイプ管の組み合わせからなり、パイプ管の総数はオルガンによって大きく異なります。簡単に説明すると、フルー管はリコーダーのように管の長さだけで音の高さが決まるもので、リード管はクラリネットのように振動させるリードが管の中に取り付けられ、その振動で音が出るものです。

そしてオルガン製作において重要な作業の一つが「整音」と「調律」です。整音とは設置される空間の音響に合わせて、最もよく響くようにパイプ1本1本の音色を決定する作業のことです。調律は現代の楽器のほとんどと同じように平均律で調律されます。整音と調律が終われば、いよいよオルガンは完成します。

しかし完成後すぐに問題なく使用できるわけではありません。パイプオルガンは金属のパイプが目立ちますが、実は木製のパイプや部品も多く、夏の湿気や冬の乾燥、冷暖房による急激な湿度変化に弱いため、設置されてから1~2年は環境になじむために収縮・伸長を繰り返し、5年経ってようやく安定してきます。また金属のパイプは主に錫と柔らかい鉛の合金でできているため、5~10年経つと自重で間の長さが短くなることがあります。そのため、完成後15~20年をめどに製作家によるオーバーホール(全パイプを分解しての調律確認)が行われます。複雑で繊細な楽器であるパイプオルガンは、メンテナンスをしっかり行うことで100年、200年と弾き続けることができるのです。

 

<日本とパイプオルガン>

そんなオルガンが日本にやってきたのは大正時代~昭和時代のことです。オルガンの歴史から考えてもかなり遅い舶来でした。しかし現在では国内の教会やコンサートホールなどに数多くのオルガンが設置されるようになり、世界でも珍しいほど多種多様なパイプオルガンがあります。

例えば、第200回定期演奏会東京公演が行われるサントリーホールのオルガンはオーストリアのリーガー社(ドイツ系オルガン)の建造で、1986年に完成したものです。パイプの総数はなんと5898本もあります。ドイツ系のオルガンですが、フランス系の様式が取り入れられており、その特性を生かしてドイツの代表的なオルガン曲からフランス近代の交響曲でのオーケストラ共演まで様々な場面で活躍しています。

 マーラー交響曲第2番では第5楽章に登場するパイプオルガン。合唱も含めた全楽器が導入され「復活」の動機を表現するダイナミックな場面であり、曲中最も盛り上がる箇所であることは間違いありません。そしてパイプオルガンはオーダーメイド。3公演全て、1つとして同じ音色で演奏されることはありません。文字通り全てが一度きりの演奏会となるのです。ホールに響くオルガンの音と一体となった私たちのマーラー交響曲第2番を、ぜひ会場でお楽しみください。

 

参考文献

『パイプオルガン入門 聞いて触って楽しむガイド』 (椎名雄一郎著、春秋社、2015年)

『オーケストラの音楽史 大作曲家が追い求めた理想の音楽』

(パウル・ベッカー著 村松哲哉訳、白水社、2013)

『オルガンの歩み 教会の内外でどのように発展してきたか』

(大林徳吾郎著 日本キリスト教団出版局 発行 『礼拝と音楽』 106号より)