サン=サーンス 交響曲第3番ハ短調『オルガン付き』


C.サン=サーンス(Charles Camille Saint-Saens,1835-1921)は、フランス音楽界を代表する作曲家です。パリ音楽院に学び、オルガンとピアノの名演奏家として名を馳せる一方、作曲家としても様々な分野で活躍しました。第202回定期演奏会で演奏する交響曲第3番「オルガン付き」は彼の代表作であるだけでなく交響曲史に残る傑作です。

「オルガン付き」(avec organ)という通称の通り、この交響曲ではオーケストラの編成にパイプオルガンが組み込まれています。交響曲の中でオルガンを使う、という構想はこの曲が初めてではありません*1が、交響曲の中でオルガンが時に独奏楽器ふうに、時にオーケストラと一体になって大活躍するという点で「オルガン付き」は他の楽曲とは一線を画しています。 楽器編成と並んで特徴的なのがその構成・構造です。2つの楽章からなり、それぞれが前後半の2つに分かれているという独特な形式ですが、4楽章構成としてみると「急-緩-舞-急」の古典派的な配列*2となっており、独創的なスタイルと伝統的な様式が融合しています。また、循環主題と呼ばれる幾つかの主題が全曲を通して形・調性・楽器を変えながら何度も現れ、曲を支配する構造になっています。

第1楽章前半部(Adagio – Allegro moderato) 序奏付きの自由なソナタ形式

アダージョの神秘的な序奏に続き、暗い影のような主題が弦楽器に現れます。影は木管楽器に受け継がれ、いたる所にその姿を見せます。金管楽器も加わりオーケストラは厚みを増してゆき、再現部では木管楽器を伴った弦楽器がフォルテッシモで劇的に立ち上がり、音楽の立体感は頂点に達します。クライマックスが過ぎると音楽は潮が引くように徐々に落ち着き、終結部は低弦のピチカートとともにどこかへ消えてゆくように終わります。

第1楽章後半(Poco Adagio) 自由な変奏曲の形式

 安らかに響きわたるオルガンの和音に続いてオーケストラが優美な旋律を奏でます。静かに祈るような弦楽器のメロディをクラリネット、ホルン、トロンボーンが受け継ぎ、それぞれの楽器の音が溶け合うような神秘的な音色が響きます。音楽は徐々に色彩を増しながら情感豊かに盛り上がってゆき、最後は眠りに落ちるように終わります。

第2楽章前半(Allegro moderato – Presto – Allegro moderato – Presto) スケルツォ*3

 冒頭から弦楽器のユニゾンでドラマティックな主題が登場し強烈なキャラクターが示されます。快速なPrestoの中間部でははしゃぐような木管楽器と鮮やかなソロ・ピアノが音楽を盛り上げるのが印象的です。揺れるような木管楽器に彩られながらやわらかな弦楽合奏が現れ、木管楽器が受け継ぎます。再びピアノが現れ木管楽器と絡み合い、力強い和音が中間部を締めくくります。再現部では主部の展開が繰り返され、再びPrestoに入ります。中間部の再現のようでありながら、低弦を中心に新しい主題が現れ、徐々に重なり合って発展していきます。終結部では再び不穏な影が現れますが、フィナーレへと繋がる美しい和音に導かれます。

第2楽章後半(Maestoso) ソナタ形式

 オルガンの堂々とした和音によって幕を開けます。続いて弦楽器、木管楽器が力強く歩み出し、四手の連弾ピアノが祝福するような輝かしいフレーズを奏します。影のようだったテーマは長調に転じ、2ndバイオリンとチェロに始まるフーガ*4や、華やかな金管楽器のファンファーレとして高らかに演奏されます。最後はオルガンとオーケストラが一体となり、ホール全体に響き渡る輝かしい和音のうちに締めくくられます。

1886年、この曲はサン=サーンス自身の指揮によって初演され、空前の大成功を収めました。グノーやベルリオーズ以来、長らく交響曲の書かれる機運のなかったフランスですが、「オルガン付き」以後、ラロやフランク、デュカスらが素晴らしい交響曲を発表し、その後も多くの作曲家が続きます。サン=サーンスと「オルガン付き」によって、フランスにおいても交響曲は作曲家にとって欠かせない重要なジャンルとして蘇ったのです。

ホール全体に響き渡るオルガンの音色やオーケストラとの有機的な絡み合い、そして形を変えながら何度も現れる循環主題の発展――演奏会では、フランス音楽の金字塔とも言えるこの曲ならではの様々な聴きどころをお楽しみ下さい。

 *1 リスト「ファウスト交響曲」(1857年初演)などがある。ちなみにリストはサン=サーンスと親交が深く、交響曲第3番には「亡きフランツ・リストの思い出に捧ぐ」という副題が付けられた。
*2 全4楽章で、「第1楽章:アレグロソナタ/第2楽章:緩徐楽章/第3楽章:メヌエットまたはスケルツォ(舞曲)/第4楽章:アレグロソナタ」という構成。
*3 スケルツォ(scherzo):楽曲の1種で、「諧謔曲」の意。3拍子で、舞踏的な性質を持つものが多い。ベートーヴェン以降、交響曲の第3楽章によく用いられた。
*4 フーガ(fuga):主題とその模倣が複数の声部で交互に現れる楽曲形式。

【参考文献】

全音楽譜出版社(2015)『サン=サーンス 交響曲第3番〔オルガン〕』
音楽之友社(2004)『新編 音楽小辞典』
パウル・ベッカー,松村哲哉訳(2013) 『オーケストラの音楽史:大作曲家が追い求めた理想の音楽』白水社