序曲『悪口学校』 Op.5


サミュエル・バーバー(Samuel Osborne Barber II, 1910-1981)は、アメリカ合衆国の作曲家です。1986 年の映画『プラトーン』の作中に使われた「弦楽のためのアダージョ」でご存知の方もおられるかもしれません。決して日本での知名度は高くありませんが、その作品が持つ落ち着いた雰囲気と、精緻な管弦楽書法、そしてロマン派的な要素などを特徴とする、現代アメリカを代表する作曲家の一人です。幼い頃から音楽の才能を発揮し始めた彼は、14 歳の時にフィラデルフィアのカーティス音楽院に入学し、その在学中、21 歳の頃に今回演奏する「序曲『悪口学校』Op.5」を作曲しました。初演はフィラデルフィア管弦楽団により、1933 年に行われました。

タイトルの『悪口学校(The School for Scandal)』とは、イギリスの作家リチャード・ブリンズリー・シェリダン(Richard Brinsley Sheridan, 1751-1816)の同名の戯曲からとられています。イギリスの社交界を舞台に、立派で道徳的な人物だが実際は偽善家かつ陰謀家である兄・ジョーゼフと、浪費家で放蕩三昧だが実は心優しい人物である弟・チャールズの二人が中心となって繰り広げられる喜劇です。本国イギリスではシェイクスピアの戯曲と並ぶ人気を誇り、1771 年の初演時から大成功をおさめ、幾度となく上演されています。

バーバー自身は、戯曲の物語をなぞって作曲したわけではなく、標題音楽的な要素も認めていないようですが、曲の全体にわたり、その物語の雰囲気を反映するかのような、様々なモチーフが散りばめられています。長調と短調の二つの和音が組み合わさった不穏な響きと共に始まると、まるでオーケストラが笑うように軽妙なリズムに乗って展開する場面や、オーボエ、クラリネットなどの木管楽器群が奏でる美しい旋律、金管楽器群の力強いパッセージなど、様々な表情の変化を見せます。どことなくアメリカ映画音楽のようなものを感じる方もいらっしゃるかもしれません。

初めにも紹介した通り、この作品はバーバーが21 歳の時に書かれた作品ですが、既に彼の非常に高い作曲技術が見てとれます。京都大学交響楽団がアメリカ人作曲家の作品を取り上げる機会はそれほど多くはありませんが、練習に練習を重ねて生まれた表情豊かな演奏にご期待ください。またバーバーがシェリダンの物語からどのようなヒントを得て作曲したのか、考えながら聴いてもお楽しみいただけることでしょう。

参考資料

・Encyclopaedia Britannica
 Samuel Barber
 Richard Brinsley Sheridan
 The School for Scandal
・Samuel Barber: “The School for Scandal” Program Notes(1965) – New York Philharmonic ・Samuel Barber, 1910-1981 – Library of Congress
https://www.loc.gov/item/ihas.200182572/ (2018 年 4 月 26 日閲覧)
・Overture to the School for Scandal – About the Work – Thomas May, The John F. Kennedy Center
http://www.kennedy-center.org/artist/composition/5664 (2018 年 4 月 26 日閲覧)
・佐々木健二郎著『米国クラシック音楽ガイド』東京キララ社(2009) ・シェリダン作、菅泰男訳・解説『悪口学校』岩波文庫(1981)
・Samuel Barber – Overture to “the School for Scandal”, G.Schirmer, Inc.

文責:Perc. 廣戸諒太郎