客演指揮者 角田鋼亮先生インタビュー


プログラムについて

学指揮:じゃあまずは曲の、今回選曲が長期戦で大変だったんですけど今回のプログラムが納得行くかたちで決まって良かったなぁと思っています。

角田先生:大学オーケストラの皆さんには、折角なら色々な作風の作曲家の作品を経験してもらいたいなと思っていたので、古典派のハイドンとロマン派の最後の方に位置するラフマニノフの両方があるのは良いなと思いました。また芝居に対する序曲があり、交響曲があり、舞曲がありと、それそれ異なる音楽のスタイルが学べる形にもなっていて、長期間取り組む皆さんにとっては学びの多いプログラムになったのでは。

ただ、気を付けないと全体の方向性や演奏会のまとまりがなくなっちゃうと思ったので、1曲目にバーバーをもってきて、いくつかの共通点を持たせたいと思ったんです。仕掛けを言っちゃうと、全部ニ長調が、主調として書かれているという事が一つ。それから、バーバーはピアノを弾いていたんだけど、どうやらラフマニノフの作品が好きで良く弾いてたみたい。彼の自宅にはラフマニノフが使ったピアノがあるっていう話しもあるし。オーケストレーションする際にラフマニノフの作品を参考にしていたと感じるところが多くあるし。それと、どちらの作品もフィラデルフィアの管弦楽団が初演したという繋がりもありますよね。

またハイドンの交響曲第104番は最後の交響曲で、一方ラフマニノフの交響的舞曲は最後の管弦楽曲だよね。
だけれども、ラフマニノフの交響的舞曲には彼の初期の交響曲で使ったメロディが出てきて、若い頃を回顧しているシーンもあるよね。
オープニングのバーバーの作品では彼の最初の管弦楽曲を取りあげて、作曲家の「最初と最後」という事で全体をまとめてみたいとも思いました。

やっぱり演奏会では、「やりたい曲三つ並べました。」じゃなくて、全体で1つのコンセプトを持って、ちゃんと「こういう意図があって決めました。」って自信を持ってお客さんにいえるようなプログラムが大事だなと思っています。

ニ長調について

元々ニ長調というのは、オーケストラがよく鳴る調で、栄光、輝かしさや勝利を表す調性として作曲家に利用されてきたものなんです。また、作曲家によっては“Deus”のDとして神を表したりも。いずれにしても光度を感じる調だよね。ハイドンの場合はそういった意味合いで、この調性を選んでいるのだと思います。とっても堂々と鳴り響くよね。

バーバーの作品の中のニ長調の和音ももちろん明るいんだけど、実はその中にシのフラットの音も入っていて、その事によってキラキラというよりかはギラギラした感じの響きになって、それがこの風刺喜劇の毒が効いている作品の雰囲気にマッチしているんですよね。

ラフマニノフの交響的舞曲に関しては、三楽章に「アレルヤ」(元々ニ長調を「ハレルヤ」の調とする音楽学者もいる)が出てくる事もあって、この調が選択されたかもしれないね。ただ、最後の最後でニ長調の構成音のD、F♯、Aのうちの真ん中のF♯を抜いて、明確なニ「長」調の「長」の提示を避けていますね。モティーフとして使われている「ディエス・イレ」や死を象徴するタム・タムの響きと共に、不気味な響きで曲が閉じられますね。

という事で、全体に通じて鳴っているのはニ長調の響きだけれど、それでもそれぞれの作品によって、意味や質感、響き方が異なるというところも注目して欲しいですね。

ラフマニノフについて

学指揮:まずラフマニノフについてお聞かせ下さい。

角田先生:もしかしたら、作曲家って、天から降ってきたメロディーをパーって書き留めていくイメージがあるかもしれないけど、殆どの作曲家がそうではなくて、最初のモティーフやメロディーが後にどのように展開していって、他のモティーフとどのように絡んでいけるのかという事を事前にしっかり計算、設計するんですよね。主題労作という風に言ったりもしますが。ラフマニノフは特にそれに注力した作曲家だと思っています。交響的舞曲は、彼がこれまで書いてきたピアノ曲に良く出てくるリズム・モティーフや「ディエス・イレ」や「晩祷」のメロディーなども沢山使われているので、手が込んでいますね。

学指揮:理論的というか理知的というか

角田先生:作曲家は基本的に理論的に曲を書きます。

学指揮:思い入れとかはあるにせよ音楽的なそこに深い意味があるかというよりモティーフとか考えさせるとか論理的ですよね
三楽章とか宗教的な意味があるんじゃないかという人もけっこういますね。

角田先生:僕自身の考えとしては、この作品において「宗教」というのも数あるモティーフの中の1つのモティーフというだけで、この作品で「宗教」そのものについて語ろうとした訳ではないと思います。ともすると作品の中にはっきりとした作曲家の主張やストーリーを求めがちだし、理解した方が演奏に説得力が出て良いと思うかもしれませんが、でもやはりこの作品ではあらゆるものを素材として扱っていて、純音楽のように作品をまとめているのだと思います。

間違いなく言える事は、彼はこの作品で、自分がこれまで書いてきた作品のエッセンスを取り入れているという事。生きてきた証を残そうとしているように思えます。

学指揮:あわよくばこれもバレエにしたかったとか

角田先生:そうそう。唯一書いていなかったバレエ作品を残したかったのかも。でもダメだったんでしょ?フォーキンが死んじゃって、実現しなかったとか。しかし、バレエ作品としては踊りにくいだろうなと思いますけどね(笑)。

ハイドンについて

学指揮:中プロはこちらとしてはすごく厳しいチャレンジです。 練習して結果仕上がることも大事ですが、その過程ですごく勉強になる、さすがオーケストラの基礎だなと感じています。

角田先生:必要とされるのは、フレーズを作る事、和音間の主従関係を作る事、響きの純度や立体感の構築、アンサンブル能力、他のパートが何をやっているのかを分かっていて、全部聞こえる耳のよさとか…。
本当にオーケストラの基礎が問われる、養われる作品かなと思います。

学指揮:今までロマン派ばかりやってきたので、こういう譜面を目の当たりにすると
こういうのやらなきゃなとか、意識しないといけないなと思って、
そこは選んで良かったなと思っているところです。

角田先生:音符の数は少ないんですけど、その中から感じないといけない情報はすごく多い。

学指揮:実際(合奏で)音を流してみると全然音楽に乗っていないなとかあるので、
ドラマがあるのを自分で自主的に感じ取ってやらないといけない。

角田先生:そうだね。この音符はどこ向かっていくのかという方向性を全員が共有しないといけない。
やっぱり作品が書かれた時代の様式感が大事で、歌うというより語るような感じで。少なくともラフマニノフを演奏する時とは違う音の軽さとか推進力とかが求められますね。また、二楽章は室内楽的に書かれていて、繊細な色とか和音の微妙な陰影とかを感じないとね。またどこに音楽の意外性に対して、毎回新鮮に驚いて、感動して演奏しないといけない。

学指揮:ハイドンの他の曲もそうですけど、委嘱されてというか、お願いされて書いたんですよね。

角田先生:そうです。

学指揮:そういうなかで、この曲はただ単に心地よくて耳ざわりのよいものを求めていたというよりかは、深いものがあるような。

角田先生:もちろん心に訴えるような素敵な楽想もたくさんありますよね。でも、彼は聴く人を楽しませるのが一番だった。初演された時に、「観客も私も作品を楽しんだ。」ってハイドンは書き残している。この言葉が、彼の作曲姿勢の全てだと思います。

学指揮:今まで書かれてきた曲とはまた違う、奇抜じゃないですけど驚かせるというか。そういうところを更にプラスしていた。

角田先生:音楽のセオリーがあるんだけどそれを裏切る。
だから逆にいうと、聴き手の人達がすごく音楽的な教養があったんだと思いますよ。じゃないと、ある和音から意外性のある和音に行って「えっ!」って驚けないじゃないですか。

バーバーについて

角田先生:バーバーはきっと何でも出来ちゃった人なんですよ。「弦楽のためのアダージョ」みたいにとても静謐で美しい音楽を書くこともできれば、シンフォニーの1番みたいに大河ドラマや映画音楽みたいな曲も書けるし。ピアノソナタの第四楽章なんかを聴いてみると、ミニマルミュージックみたいな感じで、同じ運動の繰り返しなんだけど、微妙に色が変わっていくようなフーガとかもあるし。コンピュータの打ち込み音楽みたいに正確無比な音が並んでいるような音楽なども。

学指揮:先天的にそういう才能がもともとあって……。

角田先生:環境が良かったからね。お母さんがアマチュアのピアニストで、親戚にオペラ歌手や作曲家がいた。音楽学校でも良い先生についていたし、とにかく音楽的な環境に恵まれていた人です。

学指揮:バーバーの源流はそういうところにあるんでしょうか。

角田先生:バーバーの源流はどこだろうね。彼が敬愛していたのはバッハとスクリャービンとラフマニノフだったけど。でもパリにも行ってたし、少し先輩にはコープランドやガーシュウィンとかもいたし、いろいろ混ざっているのかなと思いますけど。

学指揮:井上先生もお会いしたことあるとか仰ってました。1970年くらいまで生きてたんですかね。

角田先生:もうちょっとじゃなかった?僕が生まれた80年はまだ生きていたはずだから(笑)

学指揮:じゃあもう結構面白いトリオですね、この3人は(笑)

角田先生:さて、「悪口学校」序曲だけど、ひとつの噂がどんどん膨れ上がっていって人に伝播していくような様子とか、それがあたかも本当のことであるかのようになる感じとか、悪口が擬人化されてる雰囲気なんかは曲想からしっかり感じ取れるんじゃないかなと思います。

学指揮:物語の筋通りになってるとかではないけど、っていう雰囲気なんかを感じ取ってやっていると。

角田先生:あと、今回京大オーケストラに初めて呼んでもらったんですけど、「今回はいつもと違うことやっているぞ」、「新しいことに挑戦しているぞ」、っていうのを何かやりたくて。そういう意味では出だしの響きからして、「何か違う」みたいなところが感じ取ってもらえるんじゃないかな。

学指揮:バーバーとか全然今までやったことがないので、普段来てくださっているお客様が聴いても、全然違うなっていう感じがあるかと。

角田先生:うん、すごくインパクトがある。

学指揮:そうですね(笑)

角田先生:僕、最初にこれを聴いたときね、「!」ってなって引き込まれたから。

学指揮:僕も選曲で初めてみんなで聴いたとき、「おお……」ってなりましたね(笑)「う~ん、これをやるのか」っていう感じで。こういう始まり方も、新しくていいんじゃないかなと思いますね。

角田先生:うん。名前のインパクトもあるしね。

学指揮:そうですね(一同笑)

文:203期HP広報部