交響詩『レ・プレリュード』


「フランツ・リスト(ドイツ語表記Franz Liszt、ハンガリー語表記Liszt Ferenc)」と聞いて、皆さんはどのような人物を思い浮かべるでしょうか?
超絶技巧を誇ったピアニストであったことや、長髪美男子の肖像画を思い浮かべる方もおられるかもしれません。また、ピアノの経験がある方は、「パガニーニによる大練習曲第3番『ラ・カンパネラ』」や「愛の夢第3番」などの作品を連想されるかもしれません。しかしそんなリストには別の一面がありました。

ハンガリーの大貴族の領地で生まれた彼は、幼いころからピアノの才能に恵まれており、ヨーロッパ中で演奏しては「神童」の呼び名をほしいままにしました。20歳になるころには美しい外見も相まって、1歳年上のショパンとともにパリのサロン[1]の中心的ピアニストとなります。当時のアイドル的存在であった彼が出演する演奏会は現在のライブさながらの熱狂ぶりとなり、興奮のあまり失神してしまう女性が続出したといいます。

リストはピアニストとしてだけでなく、作曲の分野でも大いにその才能を発揮しました。現在有名な作品は先に挙げたようなピアノ曲がほとんどですが、その一方で管弦楽曲も多く残されています。これこそがリストの持つ「別の一面」です。彼が管弦楽曲の分野で果たした最も大きな功績として、「交響詩」という分野を創始したことが挙げられます。

交響詩とは、文学、演劇、絵画などの題材を標題とした「標題音楽」の一種で、単一楽章から成るものを一般的に指します。今回の第204回定期演奏会で演奏するベルリオーズの「幻想交響曲」も標題音楽の代表例で、リストもその実演に立ち会い、大きな影響を受けたといわれています。
この「レ・プレリュード」はリストの3作目の交響詩であり、自身の男声合唱組曲「4つの元素」を基につくられたものです。楽譜の冒頭には「ラ・マルティーヌの詩による」としたうえで「人生は死への前奏曲である」という大意の序文が記され、それが作品の標題となっています。

曲は切れ目なく演奏される4つの部分から構成されています。
第1部は静かで不安げな序奏で幕を開けます。厚みを増した序奏のあとに、未来への希望を表すような管楽器群の雄大なファンファーレが登場します。その後、様々な楽器が愛を甘美に奏で始めます。ここで演奏される2つの主題が全曲で形を変えて現れます。
第1部の後半で現れた主題の断片を不安げにチェロが演奏し、曲は第2部へと移行します。不穏なざわめきはだんだんと近づいてきて、鮮やかな転調の繰り返しののち、やがて全体合奏により大きな嵐の到来が繰り広げられます。
第3部は、嵐の後の穏やかな田園風景を描いています。牧歌風の旋律と絡み合った主題が繰り返されるうちに音楽の規模は拡大してゆき、幸福感が最高潮に達するとそのまま第4部に突入します。
金管楽器が高らかに主題を吹き鳴らし、戦いの始まりを告げます。行進曲調に変形した主題は力強いクライマックスを形作り、そして最後に行きつく先は、第1部で登場した雄大なファンファーレです。第1部では遠ざかってしまったファンファーレも、今度は収まることなく栄光を歌い上げ、曲は華やかに幕を閉じます。

「ピアノの魔術師」とも呼ばれたリストの管弦楽作曲家というあまり知られていない横顔、そして管弦楽の豊かな色彩を用いて描かれた人生のドラマを、ぜひ私たちの演奏でお楽しみください。

参考文献

  • 横井雅子 「ハンガリー音楽の魅力:リスト・バルトーク・コダーイ」 東洋書店、2006
  • 浦久俊彦 「フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか」 新潮社、2013
  • 小船幸次郎 解説 「リスト・交響詩前奏曲」 全音楽譜出版社
文:田中(Trp.)

用語解説

[1] : サロン

19世紀復古王政下のパリにおいて、ブルジョワ貴族、政治家などの社交界の中心的役割を担った空間。文学や音楽など、最先端の芸術の発信地でもあった。