『夜想曲』より「雲」「祭り」


  クロード・ドビュッシー(Claude Achille Debussy,1862-1918)は 19世紀から20世紀にかけて活躍したフランスの作曲家です。 10歳でパリ音楽院に入学し、ピアノや作曲において優秀な成績を収めました。22歳で作曲賞であるローマ大賞1位を受賞してパリ音楽院を卒業した後、彼は伝統にとらわれない音楽的手法を用いて『亜麻色の髪の乙女』『海』『喜びの島』など誰もが聴いたことのある数々の名作を生み出します。

  今回の定期演奏会で演奏する『夜想曲』は〈雲〉〈祭り〉〈シレーヌ〉の3曲で構成されていて、1897年から1899年にかけて作曲されました。初演は1900年12月9日に〈雲〉〈祭り〉のみが演奏され、翌年に全曲の初演が行われました。今回の定期演奏会では初演時と同様に〈雲〉〈祭り〉のみを演奏します。
  ドビュッシーの作曲したこの『夜想曲』は、作品に音楽用語を多用しているホイッスラー(1834-1903)の絵画に影響された説やスインバーン(1837-1909)の詩に着想を得た説など様々に推測がなされていますが、実際のところ定かではありません。ドビュッシー自身はこの『夜想曲』について、「他の夜想曲のように伝統的な形態をとっているわけではないため、夜想曲という言葉を装飾的な意味で捉えて、ここから想起される特殊な印象や光がこの曲にとって重要な要素である」と述べています。

  1曲目の〈雲〉をドビュッシーは「白みを帯びた灰色の中に消えていく雲のゆっくりとわびしげな動きを表現した曲だ」と述べています。クラリネットとファゴットの旋律から始まり、情景を一変させるコールアングレのソロが入ると、今度は冒頭と同じ旋律が弦楽器によって演奏されます。コールアングレのソロと冒頭の旋律を演奏するという一連の流れが繰り返される中に時折、暗雲が立ち込めるような旋律や、光が射したようなフルートのソロが聴こえます。この曲では途中で挿入される旋律の色の違いもさることながら、冒頭と同様の旋律がオーボエとヴィオラのソロなど様々な組み合わせで繰り返し演奏され、楽譜上では同一の形にも関わらず色の濃淡を感じることができます。
  2曲目の〈祭り〉についてドビュッシーは、「光が眩しく差し込み、祭りで踊るようなリズムの中に、それを横切る行列の旋律がいつまでも鳴り響く音楽である」と述べています。ドビュッシー自身の言葉が抽象的で、この祭りが何を表現しているのかは断定できませんが、木管楽器や弦楽器の眩惑的な光の動きや陰りの中に楽隊と思しき旋律が組み込まれるところから、一貫して夜想曲は特殊な印象や光を想起させる曲であることがうかがえます。この曲はきらびやかな光の動きの中で花火を打ち上げるような旋律を演奏するハープや、楽隊のような高らかな響きを伴う金管楽器、その動きを支える打楽器が特に印象的な作品となっています。

  言葉の注釈が加わると抽象的でやや難しい印象のあるドビュッシーの音楽ですが、彼の残した楽譜からは彼が感じていた色や光をそのまま感じ取ることができます。ぜひ会場でご体感ください。

〈参考文献〉
作曲家別名曲解説ライブラリー⑩『ドビュッシー』 1993年,音楽之友社
著 テオ・ヒルスブルンナー 訳 吉田仙太郎 『ドビュッシーとその時代』 1992年,西村書店

文:宮川(Fg.)