チャイコフスキー
幻想序曲『ロメオとジュリエット』


チャイコフスキーは、シェイクスピア『ロメオとジュリエット』を題材にこの幻想序曲を描き上げました。女性の感情的でロマンティックな魅力への憧れと同時に、女性の肉体的現実への嫌悪を抱いていたチャイコフスキー。それらを昇華させようと彼はこの美しい悲恋物語を題材として選んだのかもしれません―――。

曲は、ロメオとジュリエット2人の愛を理解する唯一の人物、ロレンス神父のテーマから始まります。宗教的で荘厳なメロディーから、2人の恋の行方を暗示するような暗く物悲しいメロディーへ。そこからさりげなく場面は変わり、2人が初めて出会う場面へと移り変わります。彼らは、互いが両家の仇敵同士の間柄であるとも知らず、ある夜舞踏会で出会うのでした。

  • Romeo
  • おぉ!
    あの娘が友達のなかに際立つさまは、雪のように白い鳩が鳥の群れにいるようだ。
    踊りが済んだら、あの娘の行方を見極めて、
    あの手にこのがさつな手が触れる仕合わせが欲しい。
    わたしはこれまでに恋をしたことがあるのだろうか。
    我が目よ、ないと言え。

そして、対立する両家という悲しい運命を匂わせながらも、瑞々しい恋心を表す美しいメロディーが奏でられます。

  • Romeo
  • 動かないで!私の祈りが実を結ぶあいだ。 こうして私の唇はあなたの唇で清められます。(口づけをする)
  • Juliet
  • では、拭われた罪はわたくしの唇にあるわ。
  • Romeo
  • わたしの唇からの罪? おおなんとやさしい罪のおねだり。 ではその罪をわたしにお返ししなさい。(口づけをする)

さて、そんな2人の恋に周りが気づき始めたかのように、曲はテンポを早めます。続いて、ロレンス神父のテーマが形を変えて演奏されます。ロレンス神父は、この2人の恋が、両家の激しい対立を止めることになると強く期待していたのです。しかし、徐々に勢いをつけながら両家の激しい抗争を描く抗争のテーマへ。掛け合うようなメロディーは、両家がいがみ合っている様をよく表しています。

そして、曲は一端徐々に緩やかになり、場面は変わります。ロメオが夜中ジュリエットの屋敷のバルコニーにこっそりよじ登り会いにいくシーンです。美しく切ない愛のテーマが奏でられます。

  • Juliet
  • ほんとうに、優しいモンタギュー様、わたくしは愚かしいほどにあなたが好き

そして朝が来て、去ってゆくロメオ。再び抗争のテーマがロレンス神父のテーマと絡み合いながら続きます。そんな中、2人は人目を盗んで再び逢瀬を遂げ、2人の胸の高まりを示すかのような愛のテーマの変奏が始まります。ついに結ばれた2人でしたが、また別れの時間が訪れるのでした。

  • Juliet
  • もう朝です。あなたに帰ってもらいたい、けれど遠くへはいやなの。
    いたずらっ子の小鳥のように、ちょっと放してもらえるけれど、足かせはめられ
    つながれて、絹の糸で引き戻されるのよ、愛が小鳥の自由をねたむから。
  • romeo
  • あなたの小鳥に僕はなりたい。
  • Juliet
  • 愛しいお方、わたくしもそう願いたいの。
    でも可愛がりすぎて殺してしまうかもしれないわ。
    おやすみ!おやすみなさい!

愛のテーマが中断され、抗争のテーマが響き渡ります。再び両家争いのなかに放り込まれる2人。そんな中、ロメオは喧嘩がきっかけとなりジュリエットの従弟を殺害。ロメオは追放の罪に処されてしまうのです。ジュリエットは、ロレンス神父に救いを求め、仮死状態になる毒薬を。抗争のテーマが渦巻く最中、ロメオの死を表す鋭い一撃。墓場へと運ばれたジュリエットを見て、死んでしまったと勘違いしたロメオは、墓場で毒を飲み、本当に死んでしまうのでした。

  • Romeo
  • なぜ君は今もそんなに美しいのか?
    あの死神までが君に惚れ込んでしまったというのか?

さらに、鋭い一撃。仮死状態から覚めたジュリエットは、死んでいるロメオを目の当たりにします。そして、ロメオが持っていた短剣で自らの胸を付いて死んでしまうのです。

 

  • Juliet
  • わかった、あの人の最期は毒薬だったんだわ。
    まぁ、ひどい、全部飲んでしまうなんて!
    あとを追うわたくしのために、一滴も残してくれなかったわ。
    口づけだわ、あなたの唇に。まだ毒がついているかもしれないから。
    死んでお伴が出来る、手っ取り早い薬になるわ。(口づけをする)

突如として途切れた抗争のテーマから、葬送を表すかのようなメロディーが現れます。しかし、物悲しい宗教的なメロディーは徐々に明るくなってゆくのです。2人の悲恋を知った両家がついに和解し、2人が天上に導かれるかのような美しい荘厳なメロディーでこの物語は幕を閉じるのです―――。