J.シュトラウス2世
ワルツ『ウィーンの森の物語』


 ヨハン・シュトラウス2世は1825年にウィーンで生まれました。彼は、ワルツやポルカといった舞曲を多く残しています。同じく作曲家の父親、ヨハン・シュトラウス1世はすでに作曲家として著名であり、シュトラウス2世もまた音楽家としての才能に恵まれていました。しかし、父親は息子が音楽家になることに強く反対し、大学では経済学といった音楽とはほど遠い教育を施していました。それでも音楽家としての夢を諦めきれなかったシュトラウス2世は、父から独立したのち作曲家として活動をはじめ、管弦楽団を設立するなど、作曲・演奏活動において欧米各地にその名を轟かせ、一世を風靡しました。生涯の多くをウィンナ・ワルツの作曲に捧げ、その功績から「ワルツ王」と評されています。後年はオペレッタの創作も手がけていました。

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数多くの歌や物語に語り継がれるウィーンの森

 ヨハン・シュトラウス2世のワルツ作品は、華やかなオーケストレーションで、曲としての統一感を強く打ち出すような構成をもっています。『ウィーンの森の物語』は、1868年に作曲され、1869年6月にウィーンで初演されました。前作のポルカ『雷鳴と電光』と同時期の作品です。この曲は、ウィーン音楽のシンボル的な存在であり、作曲家自身にとっては愛国心を表現した曲でもありました。ウィーンの森で知られるその美しい緑地帯は、昔から今日まで人々の憩いの場であり、シュトラウス2世もその自然の美しさに心を動かされて、この作品を書いたと伝えられています。シュトラウス2世のワルツの中でもいちばん規模の大きい曲のひとつであり、楽曲の構成は他の曲と比べて複雑なため、踊るためのワルツというよりは演奏会用の交響詩と考えられています。
 この曲は、夜明けを告げるようなホルンの牧歌的な吹奏で始まります。小鳥のさえずりを模した管楽器が続き、そしてこの曲の見所のひとつであるチターの独奏があります。チターは南ドイツからオーストリアにわたる地域の民族楽器で、映画『第三の男』でアントン・カラスがこの楽器を使ってテーマ音楽を演奏したことで世界的に有名になりました。シュトラウス2世は首都ウィーンと周辺地域の融合を表現するためにこの楽器を使用したといわれています。この序奏部は、119小節に及ぶ長大なもので、舞踏者たちの気分を高揚させ、5つのワルツへといざないます。
 第1ワルツはヘ長調。すぐに出る第1主題は浮動するようなのどかな調べです。森をわたるそよ風、裳裾をひるがえして踊るウィーンの娘たちをイメージさせる明るいワルツです。
 第2ワルツは変ロ長調。先ほどのチターの独奏と同じ第2主題が中心になります。素朴なリズムによる滑らかで麗しいワルツです。
 第3ワルツは変ホ長調で、軽くささやくように出て、中間に田舎風で剛健なリズムが入ります。
 第4ワルツは変ロ長調。ますます陽気に明るく朗らかになっていき、踊りの気分は最高潮になります。
 第5ワルツは変ホ長調。爽快な気分はずんずんと広がっていきます。
 終始部は変ロ長調で軽快に出て、ヘ長調で第1の主題が再現され、変ロ長調で第2ワルツの中間主題が奏でられます。終わりはヘ長調になり、第2主題が静かに出て力強く終わります。
 この曲が作られた時代の皇帝、フランツ・ヨゼフが「これで奴隷や囚人も一つのあこがれの歌をもつようになった」というほど、この曲はウィーンの人士を喜ばせ、楽しませ、力づける郷土的色彩に満ちたものであることが分かります。
 当時のウィーンの華やかさを思い浮かべながら、5つのワルツをお楽しみください。