交響曲第6番 「悲愴」

2020年1月 7日 15:30

ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(Pyotr Ilyich Tchaikovsky, 1840-1893)は、19世紀のロシア音楽を代表する作曲家の一人です。交響曲の他、『白鳥の湖』に代表されるバレエ音楽をはじめ、耳になじみのある曲も含めて数多くの作品を残しています。また、前回の定期演奏会で幻想序曲『ロメオとジュリエット』を演奏いたしましたように、京大オケが取り上げる機会の多い作曲家の一人でもあります。今回は、そんなチャイコフスキーの最晩年の傑作である最後の交響曲、第6番「悲愴」(Pathétique)に挑戦します。

本作はチャイコフスキーによって、彼自身の創作活動の集大成となるような作品として構想されました。そのことは、当初作曲されようとしていた交響曲の副題が「人生」とされていたことにも表れています。チャイコフスキーはこの作品のアイディア自体は気に入らず、作曲を放棄してしまいますが、そののちに本作「悲愴」の着想に至りました。本作は1893年に完成を迎え、10月16日に初演されますが、チャイコフスキーはそのわずか9日後に帰らぬ人となります。

以下では、実際にそれぞれの楽章についてみていきましょう。

第1楽章 Adagio~Allegro non troppo

コントラバスの重音により静かに曲が始まると、第一主題の断片がファゴットにより奏でられます。その後はテンポを早め、様々な楽器が加わることで曲調は激しさを増しますが、すぐに沈静し、一転して美しく抒情的な旋律が姿を現します。曲は穏やかに進み、最後にはファゴット※にpppppp(p=ピアノ、弱く)の音量記号が現われますが、直後唐突に激しい曲調へと変化します。金管楽器による厳粛なコラール風のフレーズを挟みながら、徐々に音楽は再び勢いを増していき、この激しい展開部は、ティンパニのトレモロに乗ってクライマックスを迎えます。その後再び美しい第二主題が歌われ、管楽器群によりコラールが受け継がれると、最後はロ長調の主和音によって静かに結ばれます。

第2楽章 Allegro con grazia

スラヴ系の音楽ではよくみられる、5拍子による舞曲です。チェロによって美しい主題が奏でられると、それをリレーしていくかのように曲は展開していきます。中間部では、ニ音(レ)の保続音が鳴り続ける中、憂いを帯びたロ短調の主題が現われます。再び前半の優美な旋律が回帰すると、下行音階が管楽器群によって奏され、穏やかに曲は閉じられます。

第3楽章 Allegro molto vivace

この楽章は、明るく快活な行進曲風のものになっていますが、冒頭は8分の12拍子のスケルツォと4分の4拍子の行進曲が掛け合わされるという構造になっており、非常に独創的な作りになっています。管楽器などによって少しずつ行進曲の主題の断片が奏でられていき、徐々に盛り上がりを見せた後、他の楽章では用いられない大太鼓やシンバルといった打楽器も加わり、力強く曲は進んでいきます。

全体として、爽やかでたくましい印象を受ける曲になっていますが、最後はフルートやオーボエ、トランペットなどの高音管楽器は休止となっており、低い音域で曲が結ばれます。チャイコフスキーは、この快活な楽章で華やかに曲を結ぶことはしなかったのです。

第4楽章 Adagio lamentoso

前楽章と打って変わって、激しい悲哀に満ちた響きで始まる、厳かな緩徐楽章です。冒頭のロ短調の主題には、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンによって1音ずつ交互に主旋律が弾かれるという、独創的なオーケストレーションが施されています。その後は管楽器群の三連符に乗りながら、ニ長調の美しい主題が奏でられます。少しずつ曲は盛り上がりを見せ、力強いクレッシェンドの後、一旦ハ長調の主和音で劇的な終止を迎えます。

しかしその直後、再び激しい悲しみを想起させるような響きが回帰します。冒頭の主題が力強く奏でられますが、もはや初めのような不安定な印象はありません。この怒涛のシーンが少しずつ沈静すると、タムタム(銅鑼)が静かに打ち鳴らされ、トロンボーンとチューバによる重苦しいコラールが奏でられます。最後はチェロとコントラバス以外の楽器は全て沈黙し、静かに曲は幕を閉じます。

この曲がチャイコフスキー自身にとってどのような意味を持った作品だったのか、今となっては確かなことは言えません。しかしこの作品は、冒頭でも述べた通り、彼の作曲家人生の集大成となるようなものとして、深い思い入れをもって書かれたものです。実際に彼の白鳥の歌となってしまった本作を、様々な思いを浮かべながら、会場にてお聴きいただけますと幸いです。

※実際にはバスクラリネットで演奏されることが多く、今回の演奏でもバスクラリネットを使用いたします。

参考資料

堀内久美雄解説『チャイコフスキー 交響曲第6番《悲愴》 ロ短調 作品74』, 音楽之友社, 2004.

中島克磨解説『チャイコフスキー 交響曲第6番ロ短調 作品74 〈悲愴〉』, 全音楽譜出版社, 2016.

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