客演指揮者 下野竜也先生インタビュー

2022年5月29日に行われたインタビューの全文を公開します。

⸺今回指揮の依頼を受けてくださった理由、その時のお気持ちをお伺いしたいです。

理由はご依頼があったから。ずいぶん何回もご依頼をいただいていたが、予定が合わなくて。今回はちょうど仰っていただいた日にちが合ったのと、もちろん京都大学交響楽団は学生オーケストラの名門であって昔から存じ上げてましたから、とても楽しみにしてましたし。実際昨日も初日でね、とてもすばらしく、演奏会楽しみです。


⸺ありがとうございます。今回のプログラムについて、ブルックナーとシューベルトになりましたが、それについて、どういう風なお気持ちでしょうか。

レベルは違いますけど自分も学生だった頃学生オーケストラにいたんですね。僕は指揮者にしてはちょっと変わった経歴、いわゆる普通の大学を出てから音大に行ったので、学生オーケストラっていうのは、自分ももう30年以上前ですけど経験していたので。学生オケっていうのは良い意味でチャレンジングですよね。だから、うちの先生も言っていましたけど学生オーケストラにできない曲はないっていうの、色んな意味が含まれてますけど。

色んな作品をやってね、今回ご提案でどういった経緯で、チャイコフスキーが(検討曲に)入ってたかな?


⸺そうですね、チャイコフスキーの1番と。

ブルックナーということで。そういう挑戦をされるのはとてもいいことだと思うし。ブルックナーだけかなと思ったらシューベルトも入ってきたりね、とてもいいセンスだと思いましたね。一見「ん?」って思うかもしれないですけど、ハイドン・シューベルト・ブルックナーっていうのはオーストリアの交響曲作曲家の流れを汲んでいるんですよね、だからそういう意味で(ブルックナーは)シューベルトのことを尊敬していたと。オーストリア繋がりで、一見ブルックナーとシューベルトって音楽的に何となくこうぱっと表面的につながっていないようですけど実はとても緊密な共通性を持っているんですね。そういう意味でもさすがの選曲だなと思って感心しました。


⸺なるほど、ありがとうございます。ご来場くださるお客様、今回は配信を視聴してくださるお客様もいらっしゃるんですが、皆様へのメッセージを一言いただけますか。

特に学生オーケストラ、アマチュアオーケストラの皆さんはこの2年続いているコロナ禍で集まることも憚られたでしょうし、お聞きしたところによると演奏会、苦渋の選択だったと思うんですけど、中止なさって、前回から再開されてっていうことでね。プロはやってるのにどうしてアマチュアオーケストラはやったらいけないんだというような思いもあったし、お客さまの中にもそういうふうに思ってらっしゃる方いらっしゃると思うんですけど、これは厳然たる現実として、アマチュアオーケストラは長い時間かけて練習しますから人が集まるってことに関して言えばプロとは違うわけですね。演奏会自体はやっていいはずなんですけどね、やれる範囲で。

そういうのも経て今回大きな曲に挑まれるわけですから、そういう学生の皆さんの、京大オーケストラの皆さんの思いがなによりもご来場くださるお客さまや配信で見てくださるお客さまに伝わるといいなと思いますし、あとは皆さんのこれまでの練習の成果と、わたしが今回お招きいただいて練習するんですけどそれを経て、ブルックナーの5番にしてもシューベルトのイタリア風序曲にしても、今回でしかでき得ないような演奏になればいいなと思うんですね。

これがクラシック音楽の面白いところだと思うんですけど、ブルックナーといえば誰の演奏が好きだとかありますよね、それも楽しみだと思うんですけど、だから今でしかできない、このメンバーでしかできないブルックナーなりシューベルトがお客さまに伝わるといいなと思います。


⸺ありがとうございます。昨日練習を振ってくださったのもありますし、朝比奈先生のご出身という、うちのオケがそういうものではあるんですが、京大オケにどのような印象を今抱かれていますか。

大正時代、昭和初期、朝比奈先生が青春を過ごされた時期、明治維新があって文明開化があって、その中で西洋の文化が怒涛のように流れてきた時代に、最高学府の、帝国大学ですよね当時は、その時の若い人たちが浴びるように西洋文化を吸収しようとしていた熱意っていうのは、多分敵わないと思う。今、情報が簡単に機械一つで手に入ったり、地球の裏側の人とお話しできたり、そういう時代のほうが本当は色んなこと出来そうなんだけど、でもちょうど朝比奈先生が学生でいらっしゃった頃の熱意というのは多分敵わないかなと思うんです。

だけど、その時のDNAというか、そういうのが残っているんだろうなと思いましたね。昨日練習で初めましてって、最初の一つの音符が始まったときに皆さんの「音楽作るぞ」という集中力っていうのはすごいものがあって、やっぱり名門ならではのやる気と知性とを感じました。これがまた一つの伝統なんでしょうね、京大オケって。全ての大学のオーケストラは知りませんけど、そういう意味で脈々と繋がってるんだな、って思いますし。今までね、いらっしゃった指揮者の先生方の名前とか拝見すると、ちょっと昨日ホームページ見させてもらって。秋山先生とか若杉先生とか、僕の先生クラスの方々が20代前半で来てるのね。だからすごいなと思って。その時代に、そういう若手の、バリバリの出たばっかしの指揮者の人たちを、東京の人たちを、京都まで呼んで、新幹線ができたかできないかのときですよ、そういうバイタリティってすごいな、と思って。そういうのまた今後続けていかれるといいし。

さっきの話に戻るけど、ブルックナーの5番を選ぶことが、ちょっとびっくりはするけど、ここの大学のオーケストラとしては至極当然のことなのかな、という風に思いますし。あとひと月ですけどね、楽しみです。


⸺最後に、京大オケの団員に向けて一言いただけるとありがたいです。

何よりも今っていう時間は取り戻せませんから、本当に今いるメンバーと一緒にいる時間っていうのは最後なので、どうぞいっぱい楽しんで、とことん追求するところは追求してやってほしいと思いますし。きっとわたしが言わなくたって楽しんでらっしゃると思うんだけど。

これぐらいすごい上手なオーケストラだと、ぜひ挑戦してほしいのは、楽しむんだけど、書いてあること、作曲家から投げられたメッセージっていうのをどれだけ汲み取るかっていうのが本当はオーケストラやってる醍醐味の大きな一つだと思うので、それに挑戦していただけるといいなと思うしそれをどんどん提案していきたいと思いましたね。

サークルとして青春時代を謳歌するという楽しみと、オーケストラという、クラシック音楽っていうものをとことん楽しむっていうことの両輪を楽しんでいただけるといいんじゃないかなと思います。


⸺以上で終わらせていただきます。ありがとうございました。

ありがとうございました。

文:211期HP広報

※カッコ内は編集者注