ヴァシリー・セルゲエヴィチ・カリンニコフ(英:Vasily Sergeyevich Kalinnikov 1866-1901)は、現在のモスクワとキエフの間にある、オリョール県ヴォイナに生まれました。貧しい家庭に育った彼は、モスクワ音楽院に入学するも学費を払えず退学になるなど、数々の苦難に見舞われました。そして最晩年には結核を発症し、35歳の誕生日を目前に控えた1901年1月11日に、その短い生涯を終えました。夭折であることから作品数も少なく、彼の作品はよく知られているとは言えませんが、今回演奏する「交響曲第1番 ト短調」には確かな魅力があります。
1894年から95年にかけて作曲されたこの作品は、ニコライ・リムスキー=コルサコフから草稿を酷評されるなどの困難を経ましたが、ロシア近代音楽の代表的作曲家であるセルゲイ・ラフマニノフの尽力によってユルゲンソン社から出版され、無事1897年にキエフで初演されました。
それでは、この曲について具体的に見ていきましょう。
弦楽器によって演奏される印象的なト短調の第一主題から始まります。シンコペーションのリズムに乗りながら展開を見せた後、ホルン・ヴィオラ・チェロにより美しい第二主題が奏でられ、これらの主題を転調や変奏を伴い繰り返しながら、多様な展開を見せます。曲がクライマックスを迎えた後、一旦の静寂が訪れると、オーボエにより第一主題が想起され、唐突に全管弦楽の強奏によって締めくくられます。
ヴァイオリンとハープによって三度音程が繰り返され、静謐な雰囲気を伴って曲は始まります。コールアングレとヴィオラ、クラリネットとチェロの組み合わせによって、穏やかで美しい旋律が奏でられると、オーボエが抒情的な旋律を奏でる躍動的な部分に移行します。曲は徐々に情熱を帯びていき、クライマックスを迎えますが、その後は再び冒頭の静謐な雰囲気へと回帰し、静かに消えるように終わります。
前の楽章とはうってかわって、リズミカルで快活な舞曲形式の楽章です。弦楽器がトゥッティで民族舞踊的な主題を奏でると、様々な楽器によって軽快なメロディが奏でられ、極めて多様に展開していきます。
やがて四分の二拍子の中間部へと移行すると、がらりと雰囲気を変え、オーボエによる息の長い旋律が奏されます。曲は盛り上がりを見せ、管弦楽全体によって強奏部へと移行しますが、また徐々に静けさを取り戻していきます。再びスケルツォの動きが回帰し、快活に楽章を締めくくります。
まず、第1楽章の冒頭の主題から始まることで印象付けられるこの楽章は、すぐに活発な四分の二拍子へと移行します。これまでの楽章に登場した様々な主題が登場し、実に自由で多様な展開を見せます。
民族舞踊のような動きを見せながら曲が最高潮に達すると、最後は四分の三拍子のMaestosoへと移行し、第2楽章を特徴づけるメロディが、低音金管楽器をはじめとする楽器群によって力強く奏でられ、高音木管楽器や弦楽器、トライアングルによって奏されるリズムに乗って展開していきます。最後は全管弦楽によるト長調の和音によって、力強く締めくくられます。
夭折の天才による渾身の力作を、ぜひ会場にてお楽しみください。
参考文献
濱田滋郎解説『カリンニコフ 交響曲第1番ト短調』2013年,日本楽譜出版社