客演指揮者 大友直人先生インタビュー

2023年5⽉16⽇に⾏われたインタビューの全⽂を公開します。

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総務:まず、京大オケでの客演指揮の依頼を引き受けてくださったときの理由とその時のお気持ちをお聞かせください。

大友先生:理由というと大げさですけれども、実は僕は学生オーケストラとほとんど一緒に演奏会をしていません。若い頃は東京のとある大学のオーケストラと演奏会をして、ヨーロッパにも2、3回公演に行きましたが、大学のオケとの共演は意外と少ないです。他には関西の大学、名古屋の大学と、もっと前の学生時代には、僕と同世代なのですが、天皇陛下が大学オケのヴィオラの首席奏者でいらっしゃった時にご一緒したことがありますが、それだけです。それからは10年ほど前に、先ほどお話しした東京の大学のオケのOBたちから頼まれて一度指揮をしたのが最後です。京大からも時々オファーをいただいていたと思うのですが、なかなかタイミングが合わずご一緒できませんでした。

学指揮:今回も日程的に難しいところをお引き受けいただいてありがとうございます。

大友先生:いえいえ。京大オケは大学のオーケストラとしては名門だと有名でしたから、やはり一度はご一緒したいと思っていました。僕は京都市の交響楽団と30年近くの付き合いがあり、その常任(指揮者)をしている頃までは1年のうち3ヶ月ぐらいは京都にいました。そのような意味でも、京都は何となく親近感がある街で、とても楽しみに(指揮の依頼を)お引き受けしました。

総務:ありがとうございます。次に、今回のプログラムについてお聞きします。色々とご指導いただき、修正させていただいたプログラムですけれども、どのようにお考えでしょうか?

大友先生:音楽大学のオーケストラもそうですが、学生オーケストラは、大学院生の参加こそあれど、基本は4年間ですよね。その4年間で経験できる演奏会の機会というのは本当に限られています。その限られた中でせっかく演奏するのですから、クラシックの音楽、そしてオーケストラの音楽の一番魅力的な部分に触れられるプログラムにするということが大事だと思い、このプログラムを推しました。
そして4年間ではありますが、皆さんは少しずつ学年が上がって行くわけですから、近年演奏した曲目などはやはり重複しないようにしなくてはいけないと思いました。そこで少しそのような(近年の演奏会の)情報をいただいたり、皆さんからの提案をいただいたりする中で、今回のプログラムを決めました。

総務:プログラムの聴きどころや、どのような曲にしたいかというような展望がございましたらお伺いしたいです。

大友先生:大きなシンフォニーが2つというのは、プログラムとしては結構重たいですよね。ベートーヴェンの(交響曲)第1番は、その後に大きな交響曲がたくさん続いていますから、なんとなく「一番初めの作品」というイメージが強いかと思います。ですが第1番は本当に素晴らしい、よくできた曲ですから、ベートーヴェンがこの交響曲しか書かなかったとしても、歴史に残るような名曲ですよね。しかも決して短くない、立派な曲です。

これを演奏したあとのブラームスの(交響曲)第4番も、ブラームスの4つあるシンフォニーの中の集大成のような曲です。ブラームスの(交響曲)一曲一曲はどれもキャラクターが違いますが、いわゆる古典的な、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンという流れの中で作られてきたシンフォニーとしては、本当に充実していて奥の深い曲だと思います。その後、オーケストラの使い方、サイズ、編成等がますます大きくなっていく時代が来るのですが、ブラームスは基本的に先ほど言った古典の流れの延長線上で、即ち、まさに今回扱うベートーヴェンの延長線上でシンフォニーというものを構築したわけです。そのような意味でも、(交響曲第4番は)本当に素晴らしい、名作中の名作です。

この2つの曲が決まると、最後に残ったプログラムの一曲目について、こちらも色々と考慮しました。僕は京大オケ(との共演)は初めてなのですが、京大オケが大きな学生オーケストラだと聞いていたので、打楽器や金管楽器は大勢いるだろうと推測しました。そうなると、皆さんの中で一人でも多く演奏会に出ることができた方が良いだろうと考え、ドイツのベートーヴェンやブラームスの前に来る華やかな大編成の曲として、「『(ニュルンベルクの)マイスタージンガー』(より 第1幕への前奏曲)」は本当にポピュラーでよく知られているため演奏会に相応しいと思い、選びました。

総務:ありがとうございます。学生オーケストラのことをいろいろ考えてくださったのを身に染みて感じました。 では 次に、我々京大オケに今の段階でどのような印象をお持ちでしょうか?

大友先生:まだ、前回(=4月下旬)初めてリハーサルをして(今日で)2回目ですから、それほど皆さんのことについて言えないですけれども、やはり一般の大学の勉強をしながらサークル活動として活動しているオーケストラには非常に優秀な人たちが多いと感じますね。

あと、コロナ禍は色々大変だったでしょうけれども、今回は弦楽器も大勢いて驚きました。皆さんよく弾いていて本当にすごいと思います。日本は吹奏楽が盛んですし、小学校、中学校から部活等で経験がある人も少なくないので、管楽器は人数が多く、また演奏水準が比較的高い学生さんもたくさんいます。しかし弦楽器となると、なかなか弾ける人がいないというのが普通だと思います。ですから、京大オケにはこれだけよく弾ける学生さんが大勢集まっているというのは珍しいと思います。今回は京大生以外に京都周辺の大学からも(演奏者として)参加しているようですけれども、弦楽器が充実しているというのは、私にとっても嬉しいことですね。

京大オケのイメージとしては、最初は皆さんが緊張しているのか、少し暗い感じがしましたね。
(一同笑)

大友先生:その理由はよくわかりませんが、音楽をやる時はもう少し和やかで良いのではないかと思います。普段からそうだと思いますが、物事にはリラックスして、自分がやっていることに主体性を持って参加するということは、やはりとても大事だと思います。それから音楽、特にオーケストラやアンサンブルをやるときに一番大事なのは「柔軟性」;”flexibility”です。これを養うような経験を積むということがオーケストラやアンサンブルをやるときの醍醐味といえます。自分一人で楽器弾いている時は自分流で良くて、これは練習して自分でできるようになるものです。しかし、相手がそこに居る時、一緒に音楽をすると自分だけの音楽ではなくなってくるのです。その時にその相手の音楽や感受性、その人がやっていることをキャッチして、それに寄り添ったり、あるいは色々なことのやり取りを音楽上で行ったりというようなことが生まれてくるというのが、オーケストラやアンサンブルをするときの一番楽しくて素晴らしいところです。皆さんもそのような感性や経験をもう少し積めると良いのではないでしょうか。(京大オケには)十分それに対応できる能力のある人がたくさんいると思います。

最初の練習の時、(演奏者の)皆さんには今まで自分で練習してきたやり方やテンポといったものが染みついていて、それぞれが個人で当然のように演奏していると感じました。ですから、それがほぐれて、今述べたような意味でやわらかく、新しいものを創るというような空気が出てくると良いと思います。

総務:ありがとうございます。ではここから、大友先生からお客様・団員に向けたメッセージをお願いいたします。

「京都大学」交響楽団ということは、やはり皆さん一人一人が自分の専門の勉強をしながら趣味で楽器を演奏してオーケストラに参加しているということが大前提です。そういう人たちが一生懸命アンサンブル/オーケストラというものに参加し、演奏会に向けて全力で様々な準備を進めてきたわけですから、その成果とエネルギーをぜひ感じていただきたいと思います。

それからメンバーの皆さんに対しては、各々が自分の生活の中で色々と時間を作り、それなりの練習を積み重ねてオーケストラに参加するというのはやはり大変ですよね、時間的にも物理的にも。今日もここ(=練習会場)に来るのも遠くて大変だったでしょう。
(一同笑)

大友先生:そのような物理的な意味でも皆さんにも大変な負担があるわけで、それだけの色々な苦労をしながら演奏会に向かって(練習して)来たわけですから、それらを色々な意味で発散していただきたいです。そして、今皆さんが発散させようとしているエネルギーをしっかりと見事に音にできるように、私も一緒に演奏に参加したいと思います。

総務:ありがとうございました。

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文:213期HP広報

※カッコ内は編集者注