本作品は、ガブリエル・フォーレ(Gabriel Urbain Fauré, 1845~1924)が1919年に作曲した舞台音楽《マスクとベルガマスク Masques et Bergamasques》よりフォーレ自身で4曲を抜粋し、組曲としたものである。
典型的なソナタ形式をとり、軽やかに口ずさむ第一主題と伸びやかに歌う第二主題は、上品な会話と語りを思わせる。 初演時にフォーレは妻マリーに宛てた手紙でこう綴っている:「アーンが云うには、この曲はモーツァルトがフォーレをまねて作ったみたいだとね。おもしろい言い方だ」
宮廷趣味の優雅なメヌエットである。中間部は力強いアクセントが印象的であり、穏やかな主部とのコントラストのきいた楽章となっている。
強拍からフレーズがはじまる特殊なガヴォットである。(ガヴォットは通例、弱拍からフレーズを始める弱起の舞曲である)メヌエットと同様、主部と中間部の対比が印象的で、主部は歯切れのよいスタッカートの踊りである。中間部では流れるような音列がパートからパートへと受けわたされてゆき、時折主部の要素が顔を出す。
これまでの曲想と大きく異なり、幻想的かつ開放的で澄みきった音楽が展開される。一貫して明るい調子というわけではない。長調と短調のはざまをゆくような夢幻的な響きが生み出される。最後には序曲の要素が再び現れ、穏やかに曲を締めくくる。
組曲の元となった舞台音楽は、フランスの印象派詩人ポール・ヴェルレーヌ(Paul Marie Verlaine, 1844~1896)による詩『艶なる宴』に基づいている。これには、フォーレが過去に作曲した作品を4曲用いており、《パヴァーヌ Pavane》Op.50、《月の光 Clair de lune》Op.46-2といった有名曲が含まれる。フォーレ&ヴェルレーヌのコンビネーションは『月の光』をはじめ15曲以上にのぼる。
文責:市川雄一(Va.3)