客演指揮者 飯森範親先生インタビュー

学指揮:四年前に客演指揮を一度お願いして(第207回定期演奏会)、その練習が始まるところまで行けたんですけど、(演奏会を開催することが出来ず)その節は大変申し訳ございませんでした。

飯森先生:いやいや申し訳ございませんはないよ(一同笑)しょうがないからそれはもう。もう不可抗力だよこれは。

学指揮:私自身もあの当時京大オケでビオラを弾いていたので、そのときは共演が叶わず、でもまた今回こういう形でもう一度お引受けいただけたことはとても嬉しく思っております。

飯森先生:シベリウスの二番でしたっけ、そのときはね。

学指揮:そうですね、シベリウスの二番とベートーベンの二番と。かなりその時も重いプログラムでしたね。

飯森先生:そうでしたね。

学指揮:それで、今回また総務の方からお願いをさせていただいたと思うんですけど、その時の気持ちだったりを伺いたいです。

飯森先生:まず、この京大オーケストラをね、指揮させていただくということに対して、最初シベリウスの二番の時に依頼された時はね、祖父の顔がちらついたわけですよ。亡くなる何ヶ月か前にね、僕の指揮者としてだいぶ芽が出てきてるなみたいに思ってた時だったから、「もし機会があったら京都大学の母校のオーケストラを振ってやってな」っていうことを言ってたのは耳に今でもすごく残っていてね。だからその時の言葉が、ああ実現するんだなあって思って嬉しかったの。だけど残念ながらね。僕もあの時いろんな演奏会がなくなっちゃったし。でもまた今回こうやってご連絡をいただいてね、いやもう全然スケジュールが合えばやらせていただきますよって。だからもう本当に二つ返事でした。

総務:非常に光栄ですね。特に飯森先生のおじい様の、それだけ京大オケが印象に残っていたっていうのも、すごくこちらとしても嬉しい気持ちになりますし。

飯森先生:とてもそうみたいですよ。京都大学のオーケストラが彼にとってとてもいい思い出なんだろうなっていうのは感じてました。

総務:その当時飯森先生に最初声をかけていただいた運営陣の人も、また飯森先生と共演するんだって話を聞いて、意志を継いでくれてるみたいですごく嬉しいっていうふうに聞きますので、コロナ禍でたくさん苦悩した団員たちの思いも叶うっていう点でも今回非常に楽しみにしています。

飯森先生:なるほど。本当に去年の5月からだっけ普通に戻ったもんね。そのまるまる二年、いや本当にみんなにとって不運な二年間だったけど、またこうやって関わることができるのは僕としてはすごく嬉しいです。

総務:ありがとうございます。

学指揮:プログラムについてなんですが、選曲のもうかなり早い段階からブルックナーを推されていたと思うんですけど、それはどういった思いがあったのかをお聞きしたいです。

飯森先生:周りからの噂でね、京大のオーケストラの皆さんっていうのは、いい意味悪い意味でも、もう学業そっちのけで、オーケストラに関わってるみたいなこと言う人もいるし。(一同笑)だけどまた逆に、すごい難しい大学にも関わらず、それをちゃんと文武両道でやってる本当にすごい人たちだよっていうのは聞いてたし、僕の祖父もそう言ってたしね。だからなんかこう挑戦してもらいたいなっていうのもあったし、僕自身にとってもやっぱブルックナーはライフワークだし。今年はブルックナーイヤーだし。ということで、ブルックナーの4番だったら学生の皆さんでも比較的やりやすい、そしてまたお客さんにとっても聞きやすいということで、どうですかっていう提案をしたっていう感じですね。

総務:確かに選曲の中でも、ブルックナーってある意味さっきおっしゃったようにちょっと挑戦的な部分がやっぱりあるっていう印象も団員の中では大きいので。

飯森先生:あとね弦はトレモロばっかりっていう人いるからね。でも僕1番から7番を全部CD出したのかな、で来年も8番をやるんだけど。で、2楽章がすごく室内樂的に緻密にできてるんですよ、ブルックナーって。でも緻密なんだけど、とてもわかりやすくて、シンプルにできていて。プロのオーケストラと同じなんだけど、やっぱりそれをみんなに取り組んでもらって、楽器で再現してもらうっていうことが、すごく次のステップに大きな影響をちゃんと残してくれるだろうなって思ったわけですよ。朝比奈先生の大フィルとのCDとか聞くと、結構うまいんだよねやっぱりね、とても重厚な響きがするし、なんかオルガンを聴いてるような気にもなるしね。だからその朝比奈先生がやってらっしゃったブルックナーが関西から世界に発信されてるっていうことを考えた時に、今回京大の皆さんがブルックナーをやるっていうのも結構挑戦的で面白いなと思うんです。ちょっと話逸れちゃうんだけど、僕の祖父はね、「朝比奈がやってるあのブルックナーって全然面白くともなんともない」ってずっと言ってたの笑 僕がこうやって今ブルックナーかなりやってて、50年ぐらい、1年に何曲は必ずやってきたのね。だからそれは彼にとっては面白くないのかもしれないけど、今聞いてくれたら、いいねって言ってくれるかもしれないしね。うんまあそんなことがありましたよ。

総務:私どもが選曲している中で、皆さん意見が正直強いので、選曲がなかなか膠着することが多く、(一同笑)でもそこで飯森先生がブルックナーをやりたいですっておっしゃってくださったからこその今回この4番にこうして取り組むことができたんだろうなってほんとに思っていて。

飯森先生:そうね、だから弦楽器のトレモロも、大きなものはかなり出来てるし、それから管楽器も相当いい響きにはなりつつあるわけですよ。そういうのって他の曲ではなかなか出来ないと思うんだよね。マーラーとも全然違うしね。んでマーラーとブルックナーを比較する人いるけどさ、全然違うもんだからね。

学指揮:違いますよね。

飯森先生:うん全く違うもんだから。だけどどっちもいいものだよね、来年僕8番やるしね。だけど、やっぱりその中でブルックナーの交響曲をぜひやってもらいたいなっていうのは、トレモロだっていろんな種類あるわけ。それからさっき言ったみたいに弦楽器が二楽章で室内楽的な響きを醸し出す、とってもいい勉強になるし。ブルックナー4番は、向こうのヨーロッパの教会とか修道院でやったことあるけど、残響ありすぎるぐらいあるんです。そうするとピッチカートをポンってやるとうんと響いちゃって、次に行けなくなっちゃったりするわけ、和音変わる時とかね。ちょっとテンポ遅くしないと、響きが重なってっちゃうしっていうような経験もあるし。だから、ブルックナーはいろんな僕も経験してきてるから、それをみんなにエッセンスの一つをお伝えすることができるかなって思ってたわけですよ。だから結構強く提案させてもらったってことです。

学指揮:実際おっしゃる通りで、特に弦で言えばトレモロ、はなかなか他の曲であれだけ出てくることもないと思うんで、トレモロでのアンサンブルの仕方が、トレモロじゃないところも活きていくのかなって気がしています。

飯森先生:そう。例えばねちょうど今日練習で言おうと思ってたんだけど、弓ってさ結構幅あるけど、トレモロのピアニッシモっていうと、端っこの方で擦るわけよ。でも逆に、ちゃんと全面つけてやった方がやっぱりいい響きするの、トレモロって。弦だけじゃなくて弓だって大事なわけだから、弓の幅が、例えば2mmぐらいのところで弦楽器を擦るのと、例えば弓の全部で擦るのとさ、弓の振動って絶対変わるはずじゃない。そういうのでもね響き変わるんですよ。だから今日の練習でもちょっとやってみたいなって。

学指揮:お願いします。次フォーレ(のマスクとベルガマスク)なんですけども、なかなか聞く機会が少なく、僕も選曲で出てきて初めて知ったんですけど、その魅力ってどういったところにあるとお考えですか。

飯森先生:フォーレはね、とても古典的な手法を持ちながら、彼独自の色彩観とか、オルガンの名手でもあった方だから、オルガンの響きであるとか、やっぱうまいこと響きの感性を表現した人かなって僕は思うけどね。だから、サンサーンスとかもまた全然違うし、サンサーンス以上に音に関して繊細だなって僕は思うもんね。だからドビュッシーとかラヴェルのフランス音楽をやる以上に、とてもシンプルさが求められる作品なので、今回やっぱりこれを取り上げたってのは、非常に皆さんにとっては画期的なことだったのなのかなって。

学指揮:そうですね。確かにいわゆる新古典的な曲だと思うんですけど、古典的なあのカデンツであればこうくるよねってところでトニックは全然違ったりとか、だから結構和声の分析をしようとしてもなかなか難しいです。

飯森先生:でもね、このフォーレって近代和声の古典的な和声のシステムから、もう一歩先に進んだ和声の理論っていうのを比較的確立している人だから、分析しようと思ったらやれるんですよ。だから作曲を目指す人とか、もしくはちゃんと音楽の構造を分析したいっていう人にとったら、とてもフォーレはいい作品なんですよ。もちろんあのレクイエムもそうだしね。だけどそれ以上に比較的シンプルでわかりやすい。

学指揮:プログラム全体としては、どのようにお考えですか。

飯森先生:ロッシーニとフォーレとブルックナーっていう、全くキャラクターが違う作品に繋がってて、時代的にもそうだし、イタリアの音楽とフランスの音楽とそれからブルックナーってオーストリアの音楽ってなっている、その全く異なる三曲をやるっていうことは、細かい音符の弾き方がだいぶ違うわけですよ。だからその細かい音符の弾き方、それを今回みんなに感じてもらう、それから表現してもらうっていう意味が、今回のプログラムには大きいんじゃないかなと思うんですよね。それとフォーレのハープとかオルガンの使い方って、他にものすごく溶け込むような書き方をしていることがすごく多くて、いかにオーケストラの特性といかにブレンドさせるか、いかに融和させるか、それをすごく考えている作曲家かなと思うんですよね。だからそれもみんなに感じてもらえるいい機会だなと思うんですよね。そしてロッシーニはとにかく軽さ、軽さだよね。もう時には風のようにふわって行ってしまう、だけど場合によったら密度の濃いトレモロがあったり、十六分音符があったり。それでもやっぱり基本的には軽いというね。もうロッシーニは他とは全く比べ物にならないぐらい、そういったキャラクターが大事な作曲家だから、それをやってもらって勉強してもらう、そしてブルックナーは、やっぱりオルガンで作曲してるから、オルガンの響きっていうのはぜひ皆さん想像してもらいながら、それで残響の多い中で演奏しているようなイメージをぜひみんなに。まあ想像してもらえるようにこっちが言わなくちゃいけないんだけど、それのノウハウっていうのは多分あるんだろうなと思うから、それはぜひこの皆さんにやっていただきたい。っていう意味で本当に三者三様のプログラムになってて、非常にこう面白いね笑
うん頑張って。

学指揮:それでは次に、今後ご来場になるお客様だったり、あるいは配信をご視聴されるような方々にメッセージをお願いいたします。

飯森先生:僕の祖父とすごく関わりがあった京大オケの皆さんと、本当に時空を超えたというか世代を超えたというかね、こういう形でご一緒できるっていうのが何かのご縁だし、またこうやって僕は今ライフワークとしてね取り組んでいるブルックナーっていう作曲家をメインに皆さんがこう頑張ってる姿っていうのはね、ぜひ多くの方々に聞いて、体験体感していただきたいなっていう思いです。ぜひ本番は聞いてほしいですよね。

学指揮:ありがとうございます。あと団員に向けてもメッセージをいただきたいです。

飯森先生:いやもうみんな曲についてそれぞれすごい勉強してるように見えるから、それをね、いかにイメージを持つかっていうのが大事だと思うの。ロッシーニのイメージってのはこうなのかな、フォーレはこう、ブルックナーはこう。その中でこのモティーフはこういうイメージかな、この和音はこういうイメージかなっていうのをもっと強く持つっていうことをぜひあと残りの2週間弱ぐらいで強く持っていってもらえたらいいかなと思います。それは人それぞれで、同じユニゾンで動いてても感じ方っていうのはそれぞれ違うかもしれない。でももしかすると違うイメージでやってても、二人が能動的な表現をして、ユニゾンをやったら、違うものが生まれる可能性があるじゃない。相乗効果で。だからそういうのは結構狙ってるんですよね。だからそれでこれからもっとさらに強くなっていくと面白いものできないかなと思うんだよね。あと僕本番で違うことやるからね、いやわかんないけどね笑 だからぜひそういうことをやってきた時も対応できるように、だって音楽生きてるわけだから、みんなすごいテンション上がってるなと思ったら、フェルマータをちょっと長く取ったりっていうのも、空間をすごく長くとったりとかっていうことも当然出てくるしね。これちょっと響き少なめだからちょっとこれ短めにして次行こうかなとかっていうのも当然出てくるし。だからそういうのに対応できるためには、みんなが強いイメージを持って、自分の吹いている演奏、弾いている場所をちゃんと通過してってほしいっていうのかな。それかな皆さんに言いたいことは。

飯森先生:うん、頑張ろうね。(一同笑)いい演奏しようねってことだね。


文:215期HP広報

※カッコ内は編集者注